数値予報モデルとは、大気の状態変化を物理学の方程式(運動方程式や熱力学の式など)を用いてコンピュータで計算し、将来の天気をシミュレーションするプログラムのことです。
学科試験(専門知識)では、各モデルの「計算領域」や「格子間隔」の数字だけでなく、「各モデルの特徴」や「なぜアンサンブル予報を行う必要があるのか」という力学的な本質が問われます。
1. 予報モデルとは?(決定論とアンサンブルの根本原理)
たった一つのモデルですべての予報を行うことはできません。「地球全体をカバーしようとすると、計算量が膨大になりすぎて細かく見ることができない」「細かく見ようとすると、計算時間がかかりすぎて狭い範囲しか計算できない」というトレードオフがあるからです。
気象庁では、アプローチの違いによって大きく2つの予報手法に分けています。
- 決定論的予報(GSM, MSM, LFM): 「現在の解析値」を1つだけ用意し、そこから未来の答えを1つだけ弾き出す予報です。
- アンサンブル予報(GEPS, MEPSなど): 初期条件に意図的な「わずかなズレ」を加えたデータを多数用意し、複数(数十パターン)の計算を同時に行います。「雨が降る確率は30%」といった不確実性の評価や確率表現を可能にします。
【学科頻出】なぜアンサンブル予報が必要なのか?
大気は「カオス」なシステムです。どれだけ観測技術が向上しても、初期値に存在する「わずかな誤差」は避けられず、この誤差は時間の経過とともに指数関数的に増大します(バタフライ効果)。
そのため、時間の経過とともに決定論的予報(1本の計算)の信頼度は急激に低下します。この「初期値の不確実性」が予報結果にどう影響するかを統計的に評価するために、アンサンブル予報が必要不可欠となります。
2. 決定論的予報モデル(3種類:GSM・MSM・LFM)
天気予報のベースとなる「メインのシナリオ」を計算するモデルです。
| モデル名称 | 全球モデル (GSM) | メソモデル (MSM) | 局地モデル (LFM) |
|---|---|---|---|
| 主な用途 | ・明後日以降の天気予報 ・週間天気予報 ・台風情報の進路予報 | ・今日・明日の天気予報 ・防災気象情報(警報等) ・航空気象予報 | ・航空気象予報 ・土砂災害警戒情報 ・より詳細な防災情報 |
| 予報領域 | 地球全体 | 日本とその周辺 | 日本列島とその近海 |
| 水平格子間隔 | 約 13km | 5km | 1km |
| 予報期間 | ・264時間(11日:12UTC) ・132時間(5.5日:その他) | ・78時間(00, 12UTC) ・39時間(その他) | ・18時間(3の倍数時間) ・10時間(その他毎正時) |
| 実行回数 | 1日 4回(6時間ごと) | 1日 8回(3時間ごと) | 1日 24回(1時間ごと) |
【学科試験対策】各モデルの計算上の特徴
静力学モデルと非静力学モデルの区別
全球モデル(GSM): 鉛直方向の運動方程式に静力学平衡の仮定(鉛直方向の気圧傾度力と重力が完全に釣り合っているとする仮定: $\frac{\partial p}{\partial z} = -\rho g$ )を取り入れた「静力学モデル」です。水平スケールが格子間隔(13km)に対して十分に大きい現象を対象としています。
メソモデル(MSM)&局地モデル(LFM): 静力学平衡の仮定を用いず、鉛直方向の加速度(上昇流・下降流そのもの)を直接計算する「非静力学モデル」です。積乱雲などの鉛直流が卓越する小規模な現象を物理的に正しく表現するために必須の設計です。
境界条件の関係
日本付近しか計算しないMSMやLFMは、計算領域の「外側」から天気が変化して入り込んでくる影響を考慮しなければなりません。そのため、「MSMはGSMの予報値を、LFMはMSMの予報値を、それぞれの領域の端(側面境界値)として取り込んで計算する」という主従関係(ネスティング)を持っています。
格子間隔と表現可能な「実効解像度」
モデルが物理的に正しく表現できる現象のサイズ(実効解像度)は、格子間隔の約5〜8倍以上と言われています。つまり、2km格子のLFMであっても、直径数kmの「個々の積乱雲の発生・消滅」をピンポイントで直接結合・表現できるわけではなく、それらを発生させる環境場(シアーラインなど)を捉えるのが限界です。
3. アンサンブル予報モデル(3種類:GEPS・MEPS・季節EPS)
「予報のブレ幅(信頼度)」を把握するためのモデルです。
| モデル名称 | 全球アンサンブル (GEPS) | メソアンサンブル (MEPS) | 季節アンサンブル (Seasonal EPS) |
|---|---|---|---|
| 主な用途 | ・台風の暴風域突入確率 ・週間予報の信頼度判定 ・1か月予報、早期天候情報 | ・大雨の発生確率(ポテンシャル) ・発雷確率の算出 ・MSMの確からしさの評価 | ・3か月予報、暖候期・寒候期予報 ・エルニーニョ現象の予測 |
| 予報領域 | 地球全体 | 日本とその周辺 | 地球全体 |
| 水平格子間隔 | 約 27km | 5km | 約 55km |
| 予報期間 | 台風・週間用:18日先まで | 39時間先まで | 最大 7か月先まで |
| 実行回数 | 1日 1回 または 2回 | 1日 4回(6時間ごと) | 1日 1回 |
| メンバー数 | 51 メンバー | 21 メンバー | 5 メンバーなど |
【学科試験対策】アンサンブルのデータ解析理論
コントロールラン(制御予報)と摂動
初期値のわずかなズレを「摂動」と呼びます。摂動を一切加えない、客観解析から得られた最善の初期値で計算する1本をコントロールラン、摂動を加えたその他の計算をパタベーションラン(摂動メンバー)と呼びます。
スプレッド(メンバー間のばらつき)と信頼度
各メンバーの計算結果の散らばり具合を「スプレッド」と呼びます。
- スプレッドが小さい: 大気の状態が安定しており、予報の「信頼度が高い」と判断します。
- スプレッドが大きい: 大気の状態がカオス(低気圧の発達位置などが極めて敏感)であり、予報の「信頼度が低い」と判断します。
アンサンブル平均の優位性
全メンバーの予報値を平均したものを「アンサンブル平均」と呼びます。アンサンブル平均は、時間が経つにつれて各メンバーが持つランダムな予測誤差を相殺(平滑化)するため、予報期間が長くなればなるほど、単一の決定論的予報(コントロールラン)よりも予報精度(スコア)が良くなるという強力な統計的特性を持っています。
季節予報における「大気海洋結合モデル」
数か月以上先を予報する季節アンサンブル予報システムでは、大気だけでなく、変化の遅い「海面水温や海洋熱容量の変動」が相互に与え合う影響を無視できません。そのため、大気モデルと海洋モデルを連動させて同時に計算する「大気海洋結合モデル」が使用されます。
4. まとめ:学科試験対策チェックリスト(入れ替え問題対策)
- 支配方程式: GSMは地球全体を対象とする「静力学モデル」。MSMとLFMは、鉛直流を直接計算できる「非静力学モデル」である。
- 実効解像度: モデルが表現できる現象のサイズは、格子間隔の「5〜8倍」である。格子のサイズそのものの現象は表現できない。
- ネスティング: 領域モデル(MSM、LFM)の側面境界値には、より広域をカバーする上位モデルの予測値が使われる(LFM $\leftarrow$ MSM $\leftarrow$ GSM)。
- アンサンブル平均: 各メンバーのランダムな誤差を打ち消すため、長期予報においては決定論的予報単体よりも平均的な精度が高くなる。
- スプレッドの解釈: メンバー間のばらつき(スプレッド)が大きいほど、その後の大気状態の不確実性が高く、予報の信頼度は低い。
- 季節予報の仕組み: 予報期間が最長7か月と長いため、エルニーニョ予測などを見据えた「大気海洋結合モデル」をベースに運用されている。
