数値予報とは、大気の物理法則(運動方程式、連続の式、熱力学の第一法則、気体の状態方程式などからなるプリミティブ方程式系)をコンピュータで数値的に計算し、将来の大気の状態をシミュレーションすることです。
学科試験(専門知識)では、単なる計算の流れだけでなく、各プロセスにおける「物理的な意味」や「統計的な前提」が深く問われます。ただし、この分野は難解ですので、あまり深入りはせずに、試験当日に難しい問題がでたら、間違えてもいいと思います。それよりも他の分野を完璧にするほうが合格への近道だと思います。
1. 気象観測の利用
数値予報は、現在の地球の大気状態(初期値)が正確にわからなければスタートできません。そのために、世界中のあらゆる観測データを利用します。
データの収集(不規則なデータ)
- 地上: アメダス、気象官署、船舶、ブイ(空間的に陸上に偏りがあり、海洋上は非常に希薄)。
- 上空: ラジオゾンデ、ウィンドプロファイラ、航空機観測(時間・空間的に不均一)。
- 宇宙: 気象衛星(ひまわり、NOAAなどによる放射輝度データ)、GPS衛星による可降水量(水蒸気量)観測。
データの品質管理
収集された生の観測データには、機器の故障や通信エラーによる「粗大エラー(明らかな誤り)」が含まれていることがあります。
- 物理的・統計的チェック: 過去の気候値との比較や、周囲の観測値との静力学的な整合性を自動的にチェックし、異常値を系統的に除去・修正します。
2. 数値予報の流れ(4つのステップ)
数値予報は、単に一方向の計算を行うのではなく、予報値と新しい観測データを常に加え続ける「データ同化サイクル(循環)」によって運用されています。
2-1 第一推定値
- 第一推定値(背景値)とは: 「前回の予報計算(通常3〜6時間前)」によって算出された、現在の時刻における予報値のことです。
- 物理的な役割: 観測データは海洋上や砂漠などでは極めて希薄です。観測データが全く存在しない「空白域」を物理的に矛盾のない値で埋めるための、空間的な下書き(バックグラウンド)として機能します。
2-2 客観解析
- 作業: 「第一推定値(下書き)」と「実況の観測データ(本物のデータ)」を統計的に最適な重み付けで混ぜ合わせ、全格子点における最も確からしい大気状態(解析値)を作成します。
- 手法(四次元変分法など): 観測データの誤差特性と、第一推定値の誤差特性を考慮し、「物理法則(時間変化の連続性)に最も矛盾しない大気の状態」を数学的に導き出します。
- 成果物: ここで得られた「解析値」が、初期天気図(実況図)の直接のベースになります。
2-3 初期化(イニシャライゼーション)
- 問題点: 客観解析で作った「解析値」には、わずかな観測誤差や物理的な不均衡が含まれています。これをそのまま方程式に入れて計算を開始すると、自然界には存在しない「異常な高周波の重力波ノイズ」が発生し、計算が不安定化(爆発)したり、予報初期の精度が著しく低下したりします。
- 作業: 数値モデルの特性に合わせて、不要な高周波重力波を抑制し、気圧場と風の場を力学的に調和(バランス)させる微調整を行います(非線形ノーマルモード初期化やデジタルフィルタ法など)。
- 成果物: これにより、予報モデルがスムーズに時間積分を開始できる「初期値」が完成します。
2-4 予報モデル計算
- 作業: 初期値を出発点とし、プリミティブ方程式系を時間ステップごとに少しずつ進めながら未来の状態を計算(時間積分)します。
- 数学的手法: 空間の計算には、物理量を格子点ごとに計算する「差分法」や、波の成分に分解して計算する「スペクトル法」が用いられます。
- サイクルの継続: 計算された予報値のうち、次の観測時刻(3〜6時間後)の予報値が、次回のデータ同化サイクルにおける「第一推定値」として引き継がれます。
2-5 まとめ:サイクルの順序(学科試験の並び替え対策)
$$\text{第一推定値} \rightarrow (\text{観測データと合成}) \rightarrow \text{客観解析} \rightarrow (\text{重力波ノイズ除去}) \rightarrow \text{初期化} \rightarrow \text{予報モデル計算} \rightarrow (\text{次回の第一推定値へ})$$
3. パラメタリゼーション
数値予報モデルが持つ空間的な限界(解像度の限界)を、物理・統計理論によって補うための極めて重要な技術です。
3-1 格子(グリッド)の限界
コンピュータは地球の大気を細かく区切った「格子点(グリッド)」で管理しています。
- 全球モデル (GSM): 格子間隔は約13km。
- メソモデル (MSM): 格子間隔は約5km。
「サブグリッド現象」の問題
気象現象の中には、この格子間隔(解像度)よりもスケールが小さい現象が数多く存在します。
数kmサイズの積雲対流、個々の雨粒の生成、地表面の細かな起伏など。これらは格子点と格子点の間に収まってしまう(サブグリッドスケール現象)ため、方程式を用いて直接計算することが不可能です。
3-2 主なパラメタリゼーションの種類
パラメタリゼーションの定義
格子点では直接表現(分解)できない小さな現象が、格子点値(気温、湿度、風などマクロな物理量)に与える集団としての影響を、統計的・経験的な関係式を用いて見積もり、モデルの方程式に組み込む操作のこと。
学科試験では、「何がパラメタリゼーションの対象であるか(=直接計算できないか)」が頻出です。
- 積雲対流:
個々の積乱雲は計算できませんが、格子全体として「どれだけの熱や水蒸気が上空に鉛直輸送されるか」を格子点値から見積もります。 - 放射:
太陽放射の吸収・散乱、地表面・大気・雲からの赤外放射の放出・吸収プロセスを計算します。 - 地表面過程:
地表面の摩擦(粗度)による風の減速、地面と大気との間の熱や水蒸気の交換を見積もります。 - 小規模地形(重力波抵抗):
モデルの地形解像度より小さい山脈の凹凸が、上空へ伝播する「内部重力波」を介して対流圏上層や成層圏の風を減速させる効果(地形抵抗)を見積もります。 - 雲微物理過程:
水蒸気が凝結して雲粒になり、それが衝突・併合して雨粒や雪片へと成長・落下する微視的なプロセスを定式化します。
4. まとめ:試験対策チェックリスト
- 第一推定値の役割: 前回の予報値であり、観測データのない領域を物理的に補完する「背景値」となる。
- 客観解析の本質: 第一推定値と実況観測データを、それぞれの誤差特性(重み)を考慮して統計的に最適なバランスで合成する。
- 初期化の物理的理由: 計算の爆発を招く、非物理的な「高周波の重力波ノイズ」を除去・抑制するために行う。
- パラメタリゼーションの定義: 格子間隔より小さい現象(サブグリッドスケール現象)の影響を、格子点値を用いて表現する手法。
- パラメタリゼーションの対象: 積雲対流、放射、微物理過程(雨粒の生成)、地表面過程、小規模地形(重力波抵抗)は、すべて直接計算できないためパラメタリゼーションの対象となる。
