ここからは、専門知識試験対策です。最初の項目は地上の気象観測についてです。地上気象観測によって得られる気温、降水量、風向風速などのデータは、災害予防や天気予報の基礎となる重要な情報です。気象予報士試験(専門知識)対策としては、各観測機器の物理的な測定原理、設置環境に関する各種規定、および統計値の定義について、気象庁の「気象観測ガイドブック」も合わせて確認してみてください。
1. 観測網の分類と構造
我が国の地上気象観測網は、自動化された無人観測システムである「アメダス」と、高度な多要素観測を担う「気象官署」の2系統で構築されています。
| 観測網名称 | 正式名称 | 配置・運用の特徴 | 主な観測要素 |
|---|---|---|---|
| アメダス | 地域気象観測システム (AMeDAS) | 全国約1,300か所に高密度配置(約17km間隔)。原則として無人運用。 | 降水量、風向・風速、気温、日照時間 (豪雪地帯等の特定地点では積雪の深さも観測) |
| 気象官署 | 管区気象台、地方気象台、 測候所など | 全国約150か所。詳細な気象状況の把握および国際的なデータ交換を担う。 | 上記4要素に加え、気圧、湿度、視程、雲量・雲形、天気(大気現象)など |
2. 観測機器の測定原理と設置規定
2-1 風向・風速
測器の種類と流体力学的原理
- 風車型風速計(アメダス標準):
垂直尾翼によってプロペラ面を常に風向に正対させ、風速をプロペラの回転速度(発電機の出力電圧またはパルス数)から、風向を胴体の回転角から同時に検出する構造です。強風に対する耐風性能が高く、現行のアメダスにおける標準測器となっています。 - 超音波式風向風速計:
対向するセンサー間を伝播する超音波の飛行時間が、風の成分によって変化する音響学的特性を利用します。可動部がないため磨耗による経年劣化がなく、微風時から強風時まで高精度な測定が可能です。 - 風杯型風速計:
垂直回転軸の周囲に3個または4個の半球殻(風杯)を配置し、風による回転速度から風速のみを測定する構造です。風向の測定は不可能です。
設置環境および観測規定
- 設置高度: 世界気象機関(WMO)の基準に基づき、平坦な地上から 10m の高さを標準とします。
- 障害物との距離: 周囲に建物や樹木がある場合、代表的な風を捉えるため、当該障害物の高さの 10倍以上 離れた場所に設置することが気象観測法上の原則です。
- 静穏の定義: 風速が 0.2m/s以下 の場合は「静穏」と判定され、風速は0.0m/s、風向は「なし」として処理されます。
- 平均風速: 毎正時または観測時刻の 前10分間 におけるサンプリング値の算術平均値。
- 瞬間風速: 0.25秒間隔 で測定された値を、3秒間(12個のデータ)にわたって移動平均した値。
突風および風の強さの指標
- ビューフォート風力階級:
地上10mにおける10分間平均風速を基に、風の強さを 階級0(静穏)から階級12(台風級)までの13段階 で規定した国際基準です。天気図の解析や海上予報において標準的に用いられます。 - 日本版改良藤田スケール(JEFスケール):
突風(竜巻、ダウンバーストなど)の発生後に、建造物(特に日本の在来木造住宅)や樹木などの被害状況を詳細に検証し、そこから逆に 最大瞬間風速(3秒平均風速) を推定するための尺度です。2016年より運用されています。
2-2 気温
測器の種類と熱力学的原理
- 白金抵抗温度計(アメダス標準):
高純度の白金(プラチナ)の電気抵抗値が、温度の上昇に伴って直線的に増大する(正の温度係数を持つ)物理特性を利用しています。経年変化が極めて小さく、高精度な遠隔測定に適しています。 - ガラス製温度計:
ガラス管内の液体(水銀またはアルコール)の熱膨張に伴う体積変化を利用する古典的測器です。水銀はマイナス38.8℃で凝固するため、寒冷地用の測器には凝固点の低いアルコール(エタノール等)が封入されます。 - バイメタル式温度計:
熱膨張係数の異なる2種類の金属板を貼り合わせた構造です。温度変化に伴う湾曲変形を指針や記録ペンに伝達する仕組みであり、自記温度計などの簡易観測に用いられます。
設置環境と放射遮蔽
- 強制通風筒
日光による直接的な日射(短波放射)および地面からの赤外放射(長波放射)を遮蔽し、かつ空気の滞留を防ぐため、反射率の高い二重の筒内にセンサーを配置し、ファンによって毎秒数メートルの一定速度で強制通風を行います。 - 設置高度: 地表面の熱的影響(日中の放射加熱や夜間の放射冷却)を平準化するため、地上 1.5m の高さを標準とします。
試験のポイント
温度計の通風筒の下端を地上から1.5mの高さに合わせて設置します。したがって温度の計測部は1.5mより少し高い位置になります。
2-3 降水量
転倒ます型雨量計の構造
受水口(口径20cm)から流入した雨水を、内部の左右一対の「ます」に誘導します。片方のますに 0.5mm(または0.1mm)相当の雨水が溜まると、重力によってますが反転(転倒)し、その際に生じる磁気スイッチの信号回数をカウントすることで降水量を定量化します。
- 寒冷地仕様(温水・ヒーター式): 固形降水(雪、あられ等)を補足するため、受水口内部にヒーターを内蔵し、融解させて水(液体の体積)として計測します。
設置規定
周囲の構造物による雨の遮蔽や、地表面からの水跳ね(スプラッシュ効果)による誤差を防ぐため、周囲の障害物から十分な水平距離を確保し、平坦な地面に垂直に設置します。建物の屋上に設置せざるを得ない場合は、風の巻き込みによる捕捉率低下を防ぐため、屋上の端から少なくとも1m以上の距離を確保します。
2-4 湿度
測器の種類と界面物理原理
- 電気式湿度計(アメダス標準):
高分子水分吸着膜(感湿膜)が周囲の水蒸気圧に応じて水分を脱吸着する際、その誘電率の変化(静電容量の変化)または電気抵抗の変化を電気信号として検出します。応答速度が速く、気温計と同一の強制通風筒内に同居させて観測を行います。 - 乾湿計(通風乾湿球湿度計):
剥き出しの「乾球温度計」と、水で湿らせたガーゼで球部を包んだ「湿球温度計」の2系で構成されます。湿度が低い(乾燥している)ほど、湿球表面からの水の蒸発が活発になり、蒸発潜熱が奪われるため湿球の示度が低下します。この乾湿差に基づき、スプランの定数式 を用いて相対湿度を算出します。
2-5 気圧
測器の種類と圧力平衡
- 電気式気圧計(アメダス標準):
気圧変化に伴って受圧面が受ける応力を、円筒振動子の振動数変化(円筒振動式)または電極間の静電容量変化(静電容量式)としてデジタル変換します。 - アネロイド気圧計:
内部を高度に減圧(真空に排気)した金属製の薄肉容器(空盒)が、外部の大気圧変化によって受ける弾性変形を、レバー機構を介して拡大し指針に伝達する構造です。 - 水銀気圧計:
一端を閉じたガラス管内に水銀を満たして倒立させた際、管内の水銀柱が示す静水圧と大気圧とが平衡を保つ原理(トリチェリの実験)に基づきます。測器の温度変化による水銀の密度変化や、設置場所の重力加速度に対する補正が必要です。
設置および海面更正
- 動圧の排除: 屋外の風による動圧(ベルヌーイ効果に伴う気圧変動)を排除するため、気圧計は原則として密閉性の高い屋内の気圧計室等に設置されます。
- 海面更正:
各観測所の標高(現地気圧)を、大気構造の比較を可能にするため共通の基準面である海面高度(標高0m)の値へと静水圧平衡の式を用いて換算します。この換算には、観測所から海面までの仮想的な大気柱の平均気温(空気密度)が必要であり、気温が低い時期ほど空気密度が増大するため、加算すべき補正値(気圧差)は大きくなります。
2-6 日照時間と全天日射量
- 日照時間:
直達日射量が 120W/m² 以上 である時間と定義されます。これはぎりぎり影ができるぐらいの明るさです。回転式日照計や太陽電池式日照計によって直接観測されるほか、現在の地方気象観測所(一部を除くアメダス)では気象衛星(ひまわり)の可視赤外放射データから高精度に推定補間されています。 - 全天日射量:
直達日射(太陽から直接到達する成分)と天空散乱日射(大気や雲によって散乱されて到達する成分)の合算値であり、水平面が受ける単位面積あたりの熱エネルギーの総量(単位:MJ/m² または kW/m²)です。熱電対の温度差起電力を利用した全天日射計によって計測されます。
2-7 積雪の深さ
- レーザー式積雪計(現行主流):
上空の装置から地面(雪面)に向けてレーザーパルスを照射し、その往復伝編時間から雪面高度を非接触で逆算する構造です。 - 超音波式積雪計:
超音波パルスを用いる方式ですが、空気の温度変化によって音速が変動するため、厳密な温度補正が必要となる特性があります。 - 積雪統計の定義:
- 積雪0cm: 観測地点の周囲の地面について、半分以上が雪、あられ、または雹によって覆われている状態。
- 積雪なし: 固形降水物が地面に全く存在しないか、覆っている面積が半分未満の状態。
- ※ただし、夏季(6月〜8月)に局地的に発生する「雹(ひょう)」に関しては、気候統計上の連続性を担保するため、積雪の統計値としてはカウントされません。
2-8 視程
- 目視観測: 訓練された観測員が、距離および方位が既知の目標物(山嶺、高層建造物等)を目視で確認し、判別可能な最大水平距離を判定します。
- 視程計(前方散乱式):
投光部から出力された光が、大気中の微粒子(霧、煙、エアロゾル等)に衝突した際、前方に散乱する光の強度(前方散乱強度) を受光部で捕捉します。大気中の粒子数が多い(視程が悪い)ほど前方散乱光が強くなり、粒子数が少ない(視程が良い)ほど散乱光は弱くなります。
3. 毎正時における統計データの時間的定義
試験において最も出題頻度が高く、受験生が混同しやすい「正時(例:12時)の観測値」が示す時間的定義の一覧です。
| 観測要素 | 毎正時データの力学的定義 | 具体例(12時00分の発表値が示す対象時間) |
|---|---|---|
| 気温・気圧 | 瞬間値(実際は直前の1分間未満の平均値) | 12時00分ちょうどの瞬時の計器示度 |
| 風向・風速 | 発表時刻の直前 10分間の平均値 | 11時50分 から 12時00分 までの10分間平均 |
| 降水量・日照時間 | 発表時刻の直前 1時間における積算値 | 11時00分 から 12時00分 までの1時間内の総計 |
試験のポイント
「12時の風速が15m/s」という記述があった場合、それは12時00分瞬間の風速ではなく、11時50分から12時00分までの平均値を示しています。また、「12時の降水量が20mm」とは、11時00分から12時00分までの1時間に地表に達した雨の総量(積算値)を意味します。
4. まとめ:地上気象観測の試験対策要点
地上気象観測の分野において、学科試験で確実な得点源とするために暗記・理解すべき要素を以下に整理します。
- 観測網と要素の区別:
無人運用の「アメダス(原則4要素:降水量、風向風速、気温、日照時間)」と、詳細な観測を担う「気象官署(気圧、湿度、視程、雲、天気などを追加)」の役割および観測要素の違いを明確に切り分けること。 - 測器の設置基準(WMO基準):
地表面の摩擦や熱的影響(放射)を排除するため、風向風速計は地上10m、温度計は地上1.5m(地上から通風筒までの距離)に設置するという規定数値を確実に記憶すること。 - 統計データの時間的定義:
「毎正時の値」が示す対象時間が、観測要素によって「瞬間値(気温・気圧)」「前10分間平均(風向・風速)」「前1時間積算(降水量・日照時間)」と異なる点は、試験における典型的な頻出ポイントであるため混同しないこと。 - 海面更正の熱力学的関係:
現地気圧から海面気圧を算出する際、仮想大気柱の平均気温が低い(大気の密度が大きい)時期ほど、加算すべき気圧の補正値が大きくなるという物理的・静水圧的な因果関係を理解しておくこと。
