5-2 週間アンサンブル予報:仕様や読み取りの注意点を解説【気象予報士試験対策】

週間アンサンブル予報は、気象庁の「全球アンサンブル予報システム (GEPS)」の計算結果をもとに作成されるプロダクトです。

大気のカオス性により、約1週間先の予報を単一の計算(決定論的予報)で行うのは限界があります。そこで、初期値に意図的なばらつきを与えた多数のメンバー(シナリオ)を計算し、その平均(アンサンブル平均)やばらつき(スプレッド)を統計的に評価することで、予報の信頼度や重大な気象災害のポテンシャルを判断します。実技試験でも頻繁に出題される超重要図面です。


1. 週間アンサンブル予報の仕様

ベースとなっている全球アンサンブル予報システム(GEPS)の基本スペックです。

  • 対象領域: 全球(地球全体)
  • 水平解像度: 約 27km
  • 【試験対策】 決定論的な全球モデルであるGSM(約13km)よりも解像度が粗くなっています。そのため、小規模な地形による強制上昇や、局地的な極端現象は表現しきれない(過小評価される)という弱点を持っています。
  • メンバー数: 51メンバー(コントロールラン 1 + 摂動メンバー 50)
  • 予報期間: 11日間(264時間)先まで

これらの51通りの計算結果から、「アンサンブル平均図」や「スプレッド図」が作成されます。


2. 500hPa高度・渦度(平均図)

実技試験で最もよく見る図の一つです。上空の気圧の谷(トラフ)の深さや、偏西風の蛇行状態を把握するために使います。

図の構成

  • 実線(等高度線): 51メンバーのアンサンブル平均した500hPa面の高度。
  • 色・陰影(渦度): アンサンブル平均した500hPa面の渦度(正の領域=反時計回りの回転で、低気圧性循環を示します)。

【試験頻出】読み方と「平滑化」

  • トラフの追跡: 渦度の極大域(正の渦度が強い部分)と、等高度線のくぼみ(南への凸)をセットで追跡します。
  • 【重要】平均化による平滑化現象:
    メンバーごとに予測する「トラフの位置(位相)」や「強さ」が少しずつズレている場合、それらを足して平均をとると、波のピークが打ち消し合います。その結果、平均図上のトラフは、実際の個々の予想よりも「浅く(なだらかに)」表現されてしまいます。

3. 850hPa相当温位(平均図)

下層(上空約1500m)における「暖湿気の流入」や「前線の位置・活動度」を推定するために使います。

図の構成

  • 実線: 51メンバーでアンサンブル平均した850hPa面の「等相当温位線」。

読み方のポイント

  • 前線の位置解析: 等相当温位線が最も混み合っている(集中している)帯の「南縁(暖気側の縁)」に前線が解析されるのが基本セオリーです。
  • 暖湿気の目安: 特に「330K以上」(※夏期の場合)の領域は、大雨のポテンシャルを秘めた強い暖湿気が流れ込んでいる目安とされます。
  • 平均化(ここでも注意): トラフと同様に、メンバー間で前線の位置予測が南北にバラバラだった場合、アンサンブル平均をとると「等相当温位線の集中帯が実際よりも緩く(広く・弱く)表現される」ことになります。

4. 500hPa特定高度線・スプレッド・降水予想頻度

この図は、「予報の確からしさ(信頼度)」と「雨の降る確率」を視覚的に一目で判断するための複合図です。特定高度線については、実技試験においても重要です。

4-1 特定高度線

季節ごとの目安となる重要な高度線(等高線)を、全メンバー分、あるいは代表的なばらつきとして表示したものです。

  • 夏(5880m): 太平洋高気圧の縁辺(強さ)を示します。この線が日本列島をすっぽり覆っていれば「猛暑・晴れ」、南に後退していれば「冷夏・ぐずつく」といった季節予報の最大の指標になります。
  • 冬(5400m, 5100mなど): 上空の寒気の南下目安および、寒帯前線ジェット気流の位置に対応します。これが日本をすっぽり覆うと強い冬型(大雪)の目安になります。

4-2 スプレッド(ばらつきの標準偏差)

メンバー間の予報のばらつきの大きさ(標準偏差)を等値線や陰影で示します。

  • スプレッドが大きい(陰影が濃い): メンバーの予測がバラバラに分岐しており、予報が難しい。(予報の信頼度が低い状態)
  • スプレッドが小さい(陰影がない): 51メンバーの足並みが揃っている。(予報の信頼度が高い状態)

4-3 降水頻度分布

51メンバーのうち、「何%のメンバーが一定量以上の雨を予想しているか」を等値線やハッチ(網掛け)で示します。

  • 読み方: ここで高い頻度(例えば50%以上)が出ているエリアは、そのまま天気予報の「降水確率」の高さに直結します。たとえ単一の決定論的予報モデル(MSMなど)が「雨なし」と予想していても、 GEPSの降水頻度が高ければ「雨が降る(または大雨になる)ポテンシャルが十分にある」と判断し、防災上の警戒を怠らないようにします。

5. 試験対策チェックリスト

  • GEPSの仕様: メンバー数は51(コントロール1+摂動50)。水平解像度は約27kmとGSMより粗い。
  • アンサンブル平均図の罠(超重要): メンバー間の位置(位相)のズレにより、気圧の谷や低気圧は「ならされ(弱く・浅く)」、前線の集中帯は「緩く」表現される傾向がある。
  • スプレッドと信頼度: スプレッド(ばらつき)が大きい場所は、予報の分岐が起きており信頼度が低い(予測が難しい)
  • 前線の解析: 850hPa等相当温位線の集中帯の南縁(暖気側)は、前線に対応する。
  • 特定高度線の目安: 5880mの張り出し具合は、夏の太平洋高気圧の勢力を示す超重要指標である。