気象庁が運用する「ひまわり」などの衛星観測について解説します。学科試験(専門知識)においては、単なる画像の見え方だけでなく、「電磁波の波長特性」や「観測原理となる物理法則(ステファン・ボルツマンの法則など)」が頻繁に問われます。
1. 原理:何を測っているのか?
気象衛星は、地球から放たれる電磁波(光や熱)をセンサー(放射計)で捉えています。学科試験では、どの波長帯が何を意味しているのかが問われます。
- 反射(可視画像): 太陽からの光が、地球表面や雲、大気粒子に当たって跳ね返る(散乱・反射する)エネルギーの強さを測ります。
- 放射(赤外画像): 地球表面や雲、大気そのものから宇宙空間へ向けて放出される熱エネルギー(赤外線)の強さを測ります。
2. 静止衛星と極軌道衛星
気象観測に使われる衛星は、軌道によって大きく2つに分けられます。学科試験では、それぞれの「高度・軌道・観測の制約」の正誤問題が定番です。
| 種類 | 代表例 | 高度・軌道 | 特徴(学科試験の頻出ポイント) |
|---|---|---|---|
| 静止気象衛星 | ひまわり (日本) GOES (米国) | 赤道上空 約35,800km (地球の自転と同じ角速度) | 〇 常に同じ範囲を高頻度で連続観測できる。 × 高緯度(極地方)は斜めから見るため歪みが大きく、両極付近は観測できない。 |
| 極軌道衛星 | NOAA (米国) MetOp (欧州) | 上空 約800〜900km (太陽同期軌道など) | 〇 高度が低いため空間分解能(解像度)が高い。極地方も観測可能。 × 地球が自転するため、同じ場所の観測は1日に数回(約12時間ごと)に限られる。 |
3. 気象衛星ひまわりによる観測
現在は「ひまわり8号・9号」が運用されています。気象衛星は定期的に新しいものが打ち上げられ、スペックが変わるので、細かいスペックに関しては、試験に不向きなためあまり出題されません。
- バンド数: 16バンド(可視3、近赤外3、赤外10)。※多バンド化により、カラー合成(トゥルーカラー再現)や雲粒子の相(氷か水か)の判別が可能になりました。
- 観測頻度:
- 全球観測(フルディスク):10分ごと
- 日本域観測:2.5分ごと
- 空間分解能(解像度): 波長によって分解能が異なります。可視画像が最良0.5km〜1kmであるのに対し、赤外画像は2kmです(可視の方が細かい)。
4. 画像の種類と特徴(3種の神器)
学科試験では、それぞれの画像が「何の物理量」を測っているのかが問われます。
4-1 可視画像

- 原理(物理量): 雲や地表面の「反射」を観測しています。
- 制約: 太陽光を利用するため、昼間のみ利用可能です。夜間は真っ暗になります。
- 見え方の理論: 雲が厚いほど、また氷雪面であるほど反射率が大きいため、白く(明るく)映ります。海面や森林は反射率が小さいため暗く映ります。
4-2 赤外画像

- 原理(物理量): 物体から放射される赤外線エネルギーから算出される「等価黒体温度($T_{BB}$)」を観測しています。
- 物理法則: ステファン・ボルツマンの法則($E = \sigma T^4$)により、物体の温度が高いほど放射されるエネルギーは大きくなります。赤外画像では、このエネルギーが小さい(温度が低い)ものを「白」として画像化します。
- 見え方の理論: 対流圏では高度が上がるほど気温が下がるため、「温度が低い=高度が高い」となります。つまり、白く映る雲は「雲頂高度が高い」ことを意味します。24時間観測可能です。
4-3 水蒸気画像

- 原理(物理量): 赤外線のうち、水蒸気による吸収・放射が非常に強い波長(6.2µm帯)を観測しています。
- 見え方の理論: 下層からの赤外線は中上層の水蒸気に吸収されてしまうため、衛星に届くのは「対流圏中層〜上層の水蒸気」が放射した赤外線のみです。
- 明域(白): 中上層に水蒸気が多い(湿潤・上昇流場)。
- 暗域(黒): 中上層の水蒸気が少ない(乾燥・沈降流場)。
| 画像 | 観測している物理量 | 白い(明るい)部分 | 黒い(暗い)部分 |
|---|---|---|---|
| 可視 | 反射率 | 厚い雲、積雪 | 薄い雲、海面、森林 |
| 赤外 | 等価黒体温度($T_{BB}$) | 温度が低い(高度が高い) | 温度が高い(高度が低い) |
| 水蒸気 | 6.2µm帯の放射エネルギー | 中上層が湿潤(上昇流) | 中上層が乾燥(沈降流) |
5. 画像の解析事例
学科試験では、雲の形状を見分ける問題がよく出ます。さらに実技試験においては、「どのような力学的・熱力学的な背景があるか」を問われます。
5-1 温帯低気圧のライフサイクル
温帯低気圧の発達(傾圧不安定)に伴い、雲の形は規則的に変化します。試験では、衛星画像から見えるこれらの変化の順番が正しいかどうかを答えさせる問題がよく出ます。
発達期

バルジ(雲の北縁の盛り上がり)が現れる。これは強い暖気移流に伴う上昇流を示唆します。
最盛期

低気圧の中心に向かって螺旋状に雲が巻き込みます。
衰退期

寒気側の乾燥した空気(ドライスロット)が中心まで入り込み、上空の気圧の谷(トラフ)と低気圧中心の軸が直立します。
5-2 霧と層雲
夜間の放射冷却などで発生する、地表にべったり張り付いた雲です。
- 学科試験のポイント: 赤外画像では暗く(灰色〜黒に)映ります。これは、「雲頂高度が極めて低く、等価黒体温度が地表面の温度とほとんど差がないため」です。「可視で白く、赤外で暗い」のが最大の判別基準です。
5-3 積乱雲
対流圏界面付近まで発達する、強い対流雲です。積乱雲は、おそらく試験の中で最もよく出題される雲なので、衛星画像から見分けられるようにしましょう。
- 学科試験のポイント: 可視画像で真っ白(厚い)、赤外画像でも真っ白(雲頂温度が-50℃以下と極めて低い)になります。風下側に広がる「かなとこ雲」は、巻雲と同じく氷晶で構成されています。また、輪郭も明確に見られます。。
5-4 テーパリングクラウド(にんじん状雲)

- 力学的な構造: 風向のシアが大きく、先端(風上側)で次々と新しい積乱雲が発生し、それが風下へ流されながら組織化する「バックビルディング形成」によるものです。大気が非常に不安定な場(下層の強い暖湿気流入)で発生し、集中豪雨のシグナルとなります。
5-5 トランスバースライン

ジェット気流沿いの巻雲に見られる、流れの主軸に対して直角に並ぶ細かい縞模様です。
- 学科試験のポイント: 単なる強風ではなく、「水平方向の風速シアー(風のズレ)が非常に大きい」領域で発生します。この雲域では晴天乱気流(CAT)に遭遇する危険性が高いと判断されます。試験では、衛星画像からトランスバースラインがどれかを選ばせる問題がよく出ます。
5-6 地形性巻雲

山脈の風下側に発生し、位置が固定されて動かないように見える雲です。
- 力学的な構造: 上空の強い風(ジェット気流など)が山脈を越える際に生じる「山岳波(鉛直方向の波状の空気の流れ)」によって生じます。赤外画像で白く映ることから、対流圏上層の現象であることがわかります。
6. まとめ:試験対策のポイント(可視と赤外の組み合わせ)
学科試験では、可視・赤外の組み合わせから雲形を特定する論理的思考が求められます。
- 「可視で明るく、赤外で暗い」 $\rightarrow$ 雲頂温度が高く、分厚い = 霧・層雲
- 「可視で明るく、赤外で明るい」 $\rightarrow$ 雲頂温度が低く、分厚い = 積乱雲・発達した乱層雲
- 「可視で暗く、赤外で明るい」 $\rightarrow$ 雲頂温度が低いが、薄い(太陽光を透過する) = 巻雲
- 水蒸気画像の「暗域」 $\rightarrow$ 中上層での空気の沈降・乾燥化。トラフ(上空の気圧の谷)の進行やドライスロットの解析に直結する。
