これまで解説した「数値予報モデル(GSMやMSM)」は、基本的には1つの初期値から1つの未来を計算する「決定論的予報」でした。
しかし、大気にはカオス性(初期のわずかな違いが時間とともに拡大する性質)があるため、計算期間が長くなるほど予報が外れるリスクが高まります。
これを克服するために開発されたのがアンサンブル予報です。
1. アンサンブル予報のしくみ
一言で言えば、「条件をわずかに変えて、何度も計算し、その平均やバラつきを見る手法」です。
手順のイメージ

- 初期値の作成:
- 最も確からしい観測データに基づく初期値(コントロールメンバー)を用意します。
- それに、観測誤差の範囲内で意図的に「わずかなズレ(摂動)」を加えた複数の初期値を作ります。
- 多数の計算(メンバー):
- 例えば、51通りの初期値を使って、51通りの未来(メンバー)を計算します。
- 結果の解析:
- すべてのメンバーの結果を並べて比較します。
重要なキーワード
- メンバー : 計算された一つ一つの予報シナリオ。
- スプレッド: メンバー同士のばらつき具合(標準偏差)。
- スプレッドが小さい $\rightarrow$ どのメンバーも似た予報 $\rightarrow$ 予報の信頼度が高い。
- スプレッドが大きい $\rightarrow$ メンバーによって予報がバラバラ $\rightarrow$ 予報の信頼度が低い。
- アンサンブル平均: 全メンバーの平均値。
- ランダムな誤差がお互いに打ち消し合うため、単独の予報(決定論的予報)よりも平均誤差が小さくなる(精度が良い)傾向があります。ただし、これは全体的な傾向の話で、たまたま単独予報の精度が良い場合もあります。
2. アンサンブル予報のメリット
なぜわざわざ手間をかけて何度も計算するのか、その利点は試験でも頻出です。
① 予報の「信頼度」がわかる
これが最大のメリットです。「明日は雨です」と言われるより、「明日は雨ですが、予報が大きく変わる可能性があります(スプレッドが大きい)」と言われた方が、リスク管理がしやすくなります。
- これを利用したのが、週間天気予報の信頼度(A, B, C)です。
② 発生確率は低いが「重大な現象」を捉える
決定論的予報(1回の計算)では、たまたまその計算で台風が発生しなければ「なし」となります。
しかし、アンサンブル予報で「51回中3回だけ猛烈な台風が発生する」という結果が出れば、確率は低くても「台風発生のポテンシャルがある」と事前に警戒を呼びかけることができます。
- これを利用したのが、早期天候情報や台風の暴風域に入る確率です。
③ 「確率予報」が可能になる
「メンバーの30%が雨を予想している」 $\rightarrow$ 「降水確率30%」というように、客観的な確率を算出できます。
3. アンサンブル予報のデメリット(注意点)
万能に見えるアンサンブル予報にも弱点があります。実技試験で図を読み解く際に注意が必要です。
① 計算コストがかかる $\rightarrow$ 解像度が粗くなる
同じ計算を何十回も行うため、膨大なコンピュータパワーが必要です。
そのため、決定論的予報(GSMやMSM)に比べて、格子の間隔(解像度)を粗くせざるを得ません。
- 例:GSM(約13km)に対し、全球アンサンブル(約27km)など。
- 影響: 小さな地形の影響や、小さな積乱雲の予測精度は落ちます。
② 平均化による「極端現象の消失」
「アンサンブル平均図」を使う際、例えば台風の位置がメンバーごとにバラバラだと、平均をとると低気圧の中心がぼやけてしまい、実際よりも「弱く、広く」表現されてしまうことがあります。
- 対策: 平均図だけでなく、個々のメンバーの図や、スプレッド図も併せて見る必要があります。
③ 系統的誤差は消せない
アンサンブル平均をとると「ランダムな誤差」は消えますが、モデルそのものが持っている「常に気温を高めに出す癖(バイアス)」などの系統的誤差は、平均しても残ったままです。
- 対策: ガイダンスによる補正が必要です。
まとめ:試験対策チェックリスト
- スプレッドが大きいときは、予報の信頼度が低い。
- アンサンブル平均は、単独の予報より一般的に精度が高い(誤差が相殺されるため)。
- アンサンブル予報を使うと、現象の発生確率を見積もることができる。
- デメリットとして、決定論的予報より解像度が粗いことが多い。
- アンサンブル平均図では、台風などの鋭い現象がならされて(弱く)表現されやすい。
