気象予報士試験では、500 hPa天気図から上空の気圧の谷や尾根、寒気の分布、渦度などを読み取り、低気圧の発達や上昇流が生じやすい場所を考える問題が出題されます。
500 hPa天気図は、中層大気の流れを把握し、地上の天気変化や低気圧の発達を解析するための重要な資料です。
この記事では、500 hPa天気図の基本的な見方から、トラフ・リッジ・渦度の意味、寒気の解析、地上天気図との組み合わせ方まで解説します。
1. 500 hPa天気図とは

500 hPaはどのくらいの高さ?
500 hPa天気図は、気圧が500 hPaとなる面の気象要素を表した高層天気図です。(AUPQ35)
標準的な大気では、500 hPa面は地上からおよそ5,500 mの高さに相当します。ただし、実際の高度は気温などの大気の状態によって変化します。
500 hPaは、対流圏の中層にあたる気圧面です。地上付近の現象だけでなく、上空の大規模な気圧配置や偏西風の蛇行を把握する際に利用されます。
500 hPa天気図で分かること
500 hPa天気図では、主に次の情報を読み取ります。
- 等高度線:上空の高度場、トラフやリッジ
- 等温線:寒気・暖気の分布
- 風向・風速:中層大気の流れ
- 渦度:空気の回転の特徴
- 時間変化:上空の気圧の谷や寒気がどのように移動するか
ただし、500 hPa天気図の種類によって表示される要素は異なります。実況の高層天気図では高度・気温・風などが示され、数値予報天気図では高度と渦度を組み合わせた図なども利用できます。
図の名称と凡例を確認し、どの気象要素が表示されているかを把握しましょう。
2. 等高度線の読み方
等高度線とは
等高度線とは、同じ気圧面の高度が等しい地点を結んだ線です。
500 hPa天気図では、実線で等高度線が示されるのが一般的です。等高度線の分布を見ることで、上空の気圧の谷や尾根、空気の流れの大まかな特徴を把握できます。
地上天気図の等圧線は同じ気圧の地点を結んだ線ですが、500 hPa天気図の等高度線は、500 hPa面がどの高度に位置するかを表します。この違いを理解しておきましょう。
等高度線の間隔と風
等高度線の間隔は、上空の気圧傾度や風の強さを考える手がかりになります。
一般に、等高度線の間隔が狭い場所では高度傾度が大きく、地衡風が強くなりやすい傾向があります。
ただし、実際の風は地衡風からずれることもあり、等高度線の間隔だけで風速を正確に求めることはできません。
等高度線の南北方向の蛇行
500 hPa天気図では、等高度線が南北に大きく蛇行することがあります。
- 南へ張り出す部分:気圧の谷(トラフ)に対応しやすい
- 北へ張り出す部分:気圧の尾根(リッジ)に対応しやすい
このような蛇行は、偏西風の流れと関係しています。トラフやリッジの位置と移動を追うことで、天気の変化を考える手がかりになります。
3. トラフ(気圧の谷)とは
トラフの基本
トラフとは、上空の気圧の谷のことです。500 hPa天気図では、等高度線が南側へ張り出す形として現れることがあります。
トラフ付近では、上空の流れや渦度の分布によって上昇流が生じやすくなる場合があり、雲や降水、低気圧の発達に関係することがあります。
ただし、トラフがある場所で必ず雨が降るわけではありません。水蒸気の量、下層の状態、鉛直運動なども重要です。
トラフの前面と後面
トラフの位置を把握したら、その前面と後面で上空の流れがどうなっているかを考えます。
一般的な西風の場では、トラフの東側(前面)で上昇流が生じやすくなる場合があります。一方、トラフの西側(後面)では下降流が生じやすくなる場合があります。
ただし、これは典型的な傾向であり、すべてのトラフで必ず同じ鉛直運動になるわけではありません。実際には渦度の移流や風の発散・収束なども関係します。
トラフの移動
複数の時刻の500 hPa天気図を比較すると、トラフがどの方向へ移動しているかを把握できます。
トラフの接近や通過は、上空の流れの変化を示す重要な手がかりです。地上天気図と照らし合わせることで、低気圧や前線の移動・発達との関係を考えられます。
4. リッジ(気圧の尾根)とは
リッジの基本
リッジとは、上空の気圧の尾根のことです。500 hPa天気図では、等高度線が北側へ張り出す形として現れることがあります。
リッジ付近では、上空の流れや大気の状態によって下降流が生じやすくなる場合があります。下降流によって空気が圧縮・昇温すると、雲が発達しにくくなることがあります。
ただし、リッジがあるからといって、必ず晴天になるわけではありません。下層の湿り具合や前線、地形などの影響も考える必要があります。
トラフとリッジの違い
| トラフ | リッジ | |
|---|---|---|
| 気圧の状態 | 気圧の谷 | 気圧の尾根 |
| 等高度線の典型的な形 | 南側へ張り出す | 北側へ張り出す |
| 上空の流れ | 周囲より低高度側に張り出す | 周囲より高高度側に張り出す |
| 鉛直運動との関係 | 上昇流が生じやすい場合がある | 下降流が生じやすい場合がある |
| 天気との関係 | 雲や降水、低気圧の発達に関係することがある | 雲が発達しにくい状態に関係することがある |
試験では、トラフとリッジの形だけでなく、上空の流れや地上の気象現象との関係も理解しておきましょう。
5. 渦度とは

渦度の基本
渦度とは、空気の流れがどの程度回転しているかを表す量です。気象の解析では、主に鉛直方向を軸とした回転を示す鉛直渦度が用いられます。
北半球では、一般に次のように整理できます。
- 正の相対渦度:反時計回りの低気圧性の回転成分
- 負の相対渦度:時計回りの高気圧性の回転成分
ここでいう相対渦度は、空気の流れそのものの回転を表します。地球の自転による効果を含めた絶対渦度とは区別しましょう。
強風軸が渦度0ラインで、それより北側が正の渦度領域、南側が負の渦度領域となることが典型的です。
渦度とトラフの関係
トラフ付近では、風の曲がり方などによって正の相対渦度が大きくなることがあります。そのため、渦度の分布はトラフの位置を解析する手がかりになります。
ただし、正の渦度の極大位置とトラフの軸が、必ず完全に一致するわけではありません。渦度はトラフの解析を補助する情報として利用します。
渦度移流とは
渦度移流とは、風によって渦度の大きい領域や小さい領域が運ばれることです。
特に重要なのが、正の渦度移流です。上空で正の渦度が風によって運ばれてくる領域では、条件によって上昇流が強まり、地上の低気圧の発達などに関係することがあります。
ただし、正の渦度移流があるから必ず低気圧が発達するわけではありません。下層の暖湿気の流入、温度場、上空の発散など、ほかの条件も関係します。
6. 寒気の分布を読み取る
500 hPa天気図(AUPQ35)には、等温線が表示されます。等温線を確認すると、中層の寒気や暖気の分布を把握できます。
寒気が流入するとどうなる?
上空に寒気が流入すると、地上付近との気温差が大きくなり、大気の成層が不安定になる場合があります。
大気が不安定になると、空気が上昇しやすくなり、積雲や積乱雲が発達する条件が整うことがあります。
ただし、上空に寒気があるだけで必ず対流が活発になるわけではありません。下層の気温や湿度、上昇のきっかけなども重要です。
寒気の中心と移動
等温線から周囲より気温の低い領域を探し、寒気の中心がどこにあるかを確認します。
複数の時刻の天気図を比較すると、寒気がどの方向へ移動しているか、寒気が強まっているか弱まっているかを考える手がかりになります。
500 hPaの気温は、地上の気温や降水形態を直接示すものではありません。地上や850 hPaの気温と組み合わせて解析することが重要です。
7. 500 hPa天気図と地上天気図を組み合わせる
500 hPa天気図は、地上天気図と組み合わせることで、低気圧の発達や天気の変化を考えるのに役立ちます。
解析の手順
- 地上天気図で低気圧・高気圧・前線の位置を確認する。
- 500 hPa天気図でトラフ・リッジの位置を確認する。
- 渦度の分布が表示されている場合は、正の渦度域や渦度の極大位置を確認する。
- 等温線から寒気の位置と移動を把握する。
- 時刻の異なる天気図を比較し、上空と地上の変化を関連づける。
解析例:トラフが低気圧に接近する場合
地上天気図で低気圧があり、500 hPa天気図でトラフが西から接近している場合を考えます。
上空の流れによって上昇流が強まり、地上の低気圧が発達する可能性があります。
ただし、トラフの接近だけで低気圧の発達を断定することはできません。下層の暖湿気の流入や温度傾度、上空の発散なども確認する必要があります。
このように、500 hPa天気図は地上の現象を単独で決める資料ではなく、上空の状態から地上の天気変化を考えるための資料です。
8. 気象予報士試験で押さえたいポイント
500 hPa天気図では、次の内容を重点的に理解しておきましょう。
- 500 hPa面が地上からおよそ5,500 mに相当すること。ただし高度は変化する。
- 等高度線からトラフ・リッジを読み取る方法
- トラフとリッジの違い
- 渦度の正負と低気圧性・高気圧性の回転
- 渦度の分布をトラフの解析に利用する方法
- 正の渦度移流と上昇流・低気圧の発達との関係
- 上空の寒気と大気の不安定化の関係
- 地上天気図と500 hPa天気図を組み合わせる方法
特に重要なのは、トラフ・渦度・上昇流の関係を単純化しすぎないことです。トラフや正の渦度移流は上昇流や低気圧の発達に関係しますが、実際の大気の運動は複数の要因によって決まります。
9. まとめ
500 hPa天気図は、中層大気の流れを把握し、トラフ・リッジ・渦度・寒気の分布から天気の変化を考えるための重要な資料です。
まずは等高度線の形からトラフとリッジを読み取れるようにし、次に渦度の正負や渦度移流の意味を理解しましょう。さらに、地上天気図と組み合わせることで、低気圧の発達や雲・降水が発生しやすい条件を立体的に考えられるようになります。
次は300 hPa天気図を学び、ジェット気流や強風軸などから上空の風の特徴を読み取っていきましょう。
