2-2 850 hPa天気図の見方:気温・風・温度移流・前線解析を理解する

気象予報士試験では、850 hPa天気図から上空の気温分布や風向・風速を読み取り、前線の位置や気温の変化を解析する問題が出題されます。

850 hPa天気図は、地上天気図だけでは把握しにくい下層大気の状態を理解するための重要な資料です。特に、等温線の分布、風と気温の関係、前線付近の気温傾度を読み取れるようになることが大切です。

この記事では、850 hPaという気圧面の意味から、天気図の記号、温度移流、前線解析、試験対策のポイントまで解説します。

1. 850 hPa天気図とは

引用元:気象庁HP

850 hPaはどのくらいの高さ?

850 hPa天気図は、気圧が850 hPaとなる面における気象要素を表した高層天気図です。

代表的なものにAUPQ78があります。

標準的な大気では、850 hPa面は地上からおよそ1,500 mの高さに相当します。ただし、実際の高度は気温などの大気の状態によって変化します。

また、850 hPa面は気圧を基準にした面であり、地表から一定の高さにある面ではありません。標高の高い山地では、地形が850 hPa面より高くなることもあります。

850 hPa天気図で分かること

850 hPa天気図では、主に次のような情報を読み取ります。

  • 気温の分布:寒気や暖気の位置、気温傾度の大きい領域
  • 風向・風速:下層の空気の流れ、暖気や寒気の移流
  • 湿り具合:湿数などから推測できる下層大気の湿潤状態
  • 前線の解析:気温傾度や風向の変化などから推測する前線帯の位置

地上天気図が地表付近の気圧配置を把握するための資料であるのに対し、850 hPa天気図は下層大気の気温や風の状態を把握するために使います。

2. 850 hPa天気図の基本的な記号

等高度線

等高度線は、850 hPa面の高度が等しい地点を結んだ線です。

等高度線の分布から、850 hPa面の高度場や気圧の谷・尾根に対応する流れの特徴を把握できます。

ただし、850 hPa面は一定の気圧面なので、地上天気図の等圧線とは意味が異なります。

等温線

等温線は、気温が等しい地点を結んだ線です。850 hPa天気図では、気温の分布を把握するために使います。

例えば、等温線が示す気温を比較すると、周囲より気温の低い寒気域や、気温の高い暖気域を見つけられます。

等温線が密集している場所では、水平距離に対する気温の変化が大きくなっています。このような領域は、前線帯を解析する際の重要な手がかりになります。

風向・風速を示す矢羽根

高層天気図では、風向・風速が矢羽根で表されます。

記号風速
短い羽根5ノット
長い羽根10ノット
三角形の旗50ノット

複数の羽根や旗が組み合わされて風速を表します。例えば、長い羽根が2本なら20ノット、長い羽根が1本と短い羽根が1本なら15ノットです。

風向は、風が吹いてくる方向を示します。例えば、西風は西から東へ向かって吹く風です。

湿数

湿数とは、気温と露点温度の差です。


$$\text{湿数}=\text{気温}-\text{露点温度}$$

湿数が小さいほど、気温と露点温度が近く、空気は飽和に近い状態にあります。一方、湿数が大きいほど、一般に空気は乾燥しています。

ただし、湿数だけで雲や降水の有無が決まるわけではありません。上昇流や大気の安定度なども併せて考える必要があります。

3. 寒気と暖気の分布を読み取る

850 hPa天気図では、等温線を確認することで、下層の寒気と暖気の位置を把握できます。

寒気の位置

周囲より気温が低い領域は、寒気の存在を示す手がかりになります。

寒気が日本付近に流入すると、地上付近との気温差や大気の状態によっては、対流が活発になったり、冬季には雪が降りやすくなったりすることがあります。

ただし、850 hPaの気温だけで地上の気温や降雪の有無を正確に決めることはできません。地上気温、湿度、降水時の気温変化、地形なども影響します。

暖気の位置

周囲より気温が高い領域は、暖気の存在を示す手がかりになります。

暖気が流入すると気温が上昇しやすくなりますが、雲や降水の発生は、湿り具合や上昇流などの条件にも左右されます。

0 ℃の等温線

850 hPa面の0 ℃の等温線は、下層の寒気・暖気の分布を考える際の目安になります。

冬季には、850 hPa付近の気温が雪と雨の判断材料の一つとして利用されます。

850hPaの気温が、高い山であれば0℃以下、平地であれば-6℃以下で雪になると言われています。

ただし、850 hPaの気温がこれ以下なら必ず雪になる、というわけではありません。地上までの気温分布や湿球温度、降水の強さなどによって、雨・雪・みぞれの別は変わります。

試験では、850 hPaの気温だけから地上の降水形態を断定しないようにしましょう。

4. 温度移流を読み取る

850 hPa天気図で特に重要なのが、風と等温線の関係から温度移流を考えることです。

温度移流とは、風によってある場所に暖かい空気や冷たい空気が運ばれることです。

暖気移流

暖気移流とは、暖かい空気が風によって運ばれてくることです。

等温線の配置と風向を確認し、風がより高温の領域から低温の領域へ向かって吹いている場合、暖気移流が起こっていると考えられます。

暖気移流があると、その地域の気温は上昇する傾向があります。

寒気移流

寒気移流とは、冷たい空気が風によって運ばれてくることです。

風がより低温の領域から高温の領域へ向かって吹いている場合、寒気移流が起こっていると考えられます。

寒気移流があると、その地域の気温は低下する傾向があります。

温度移流を判断する手順

  1. 等温線を確認し、気温の高い方向と低い方向を把握する。
  2. 矢羽根から風向を読み取る。
  3. 風が暖気を運ぶ向きか、寒気を運ぶ向きかを判断する。(風が等温線をどちら向きに横切るか)
  4. 暖気移流か寒気移流かを整理する。

風が等温線に沿って吹いている場合、水平温度移流は比較的小さくなる傾向があります。一方、等温線を横切る風が強い場合は、温度移流が大きくなりやすくなります。

ただし、温度移流の強さは風向だけでなく、風速や気温の水平傾度にも左右されます。

5. 850 hPa天気図で前線を解析する

前線は地上天気図に描かれていますが、その位置や構造を解析する際には850 hPa天気図も重要です。

前線付近では、気温の水平傾度が大きくなったり、風向が変化したりすることがあります。

前線は、等温線集中帯の暖気側に解析されることが一般的なので、等温線と風の分布を組み合わせることで、前線帯の位置を推測できます。

寒冷前線の解析

寒冷前線では、一般に寒気が暖気側へ進みます。

850 hPa天気図では、次のような特徴を手がかりにします。

  • 前線付近に明瞭な気温傾度がある
  • 前線を挟んで風向が変化している
  • 寒気側と暖気側で気温分布に違いがある(寒気側で北西風、暖気側で南西風など)

ただし、すべての寒冷前線でこれらの特徴が明瞭に現れるとは限りません。

温暖前線の解析

温暖前線では、一般に暖気が寒気側へ進みます。

850 hPa天気図では、気温の高い空気が寒気側へ広がる様子や、前線付近の気温傾度、風向の変化などを確認します。

温暖前線付近では暖気が寒気の上に乗り上げる構造が形成されることがありますが、その鉛直構造を詳しく把握するには高層断面図なども有効です。

地上の前線と850 hPaの前線は一致するとは限らない

地上天気図に描かれた前線と、850 hPa天気図で気温傾度などから推測される前線帯は、必ずしも同じ位置にあるとは限りません。

前線は立体的な構造を持ち、地上と上空では前線帯の位置が異なることがあります。また、地形や気象状況によって、850 hPaで気温傾度が明瞭でない場合もあります。

そのため、前線の位置を判断するときは、850 hPaの等温線だけでなく、風向の変化、地上天気図、時間的な変化などを組み合わせて考えることが重要です。

6. 気象予報士試験で押さえたいポイント

850 hPa天気図では、次の内容を重点的に理解しておきましょう。

  • 850 hPa面が地上からおよそ1,500 mに相当すること。ただし高度は変化する。
  • 等温線から寒気・暖気の分布や気温傾度を読み取る方法
  • 矢羽根から風向・風速を読み取る方法
  • 気温分布と風向から暖気移流・寒気移流を判断する方法
  • 湿数から空気の湿り具合を推測する方法
  • 850 hPaの気温傾度や風向変化を前線解析に利用する方法

特に重要なのは、等温線だけを見て前線の位置を決めないことです。気温傾度、風向の変化、地上天気図との対応、時間的な連続性などを総合的に判断しましょう。

7. まとめ

850 hPa天気図は、下層大気の気温・風・湿り具合を把握し、寒気や暖気の流入、温度移流、前線の位置などを解析するための重要な資料です。

学習するときは、まず等温線と風向・風速の読み方を身につけ、次に温度移流や前線解析へ進むと理解しやすくなります。

地上天気図と850 hPa天気図の読み方を身につけたら、次は700 hPa天気図を学び、湿数や上昇流などから雲や降水につながる大気の状態を読み取れるようにしましょう。