気象レーダーは、電波を発射して雨粒からの「跳ね返り」を捉えることで、雨の分布や強さを観測する装置です。
1. 観測の原理
基本メカニズム
- 発射: レーダーアンテナからマイクロ波(パルス状の電波)を発射します。
- 散乱: 電波が雨粒や雪などの降水粒子に当たると、あらゆる方向に散らばります(散乱)。その一部がアンテナに戻ってきます(後方散乱)。
- 受信: 戻ってきた微弱な電波を受信します。
距離と方向の決定
- 距離: 電波を出してから戻ってくるまでの時間で測定します。
- 方向: アンテナが向いている方位角と仰角から決定します。
- 強度: 戻ってきた電波の強さから、雨の強さを推定します。
2. 降水粒子と反射強度
試験で最も重要な公式の一つがここにあります。
レーダーの式
アンテナに戻ってくる電力は、降水粒子までの距離と、粒子の集まり具合を示すレーダー反射因子によって決まります。なお、アンテナに戻って来る電力は距離の2乗に反比例して弱くなります。
$Z∝D^6$ の法則(レイリー散乱)
雨粒の直径(D)が電波の波長に比べて十分に小さい場合(レイリー散乱領域)、レーダー反射因子 Z は以下の関係になります。
$Z∝D^6$
(直径の6乗に比例して観測エコーは大きくなる)
ここが試験に出る!
- 雨粒の「数」が増えるよりも、「大きさ」が大きくなる方が、反射強度は劇的に強くなります。
- 例:直径が 2倍 になると、反射強度は $2^6 = $ 64倍 になります。
- つまり、小雨がたくさん降っている状態より、大粒の雨がパラパラ降っている方が、レーダーには強く映ることがあります。
3. 気象状況とエコーの例
レーダー画面上の雨雲の姿(エコー)は、その成因によって特徴的な形をしています。
寒冷前線付近のエコー

寒冷前線が北日本から西日本にかけて位置していたときのエコーです。前線付近に帯状のエコーが確認され、一部で非常に激しい雨が解析されています。
夕立時のエコー

日中に地面がよく暖められることにより、大気が不安定になると、比較的小さな強いエコーがまだらに観測されます。狭い範囲で雷や雨が強く降っている状態です。
台風のエコー

台風の中心付近は、雨が降っていないことが多く、そのすぐ外側で雨が強く降ることが多いです。また、螺旋状に雨が強い部分がいくつか見られます。これはスパイラルバンドといいます。
冬型の気圧配置のエコー

日本海側から寒気が吹き付けることにより筋状のエコーが確認されます。日本海側の降雪の原因となりますが、山脈を挟んだ太平洋側では、雪は降りにくいです。
4. レーダーの性質と特徴
レーダーのビームには物理的な制約があります。
- 地球の丸み: 電波はほぼ直進しますが、地球は丸いため、遠くに行くほどビームの高度は高くなります。
- 遠方(数百km先)では、地上の雨ではなく、かなり上空の雨や雪を見ていることになります。
- 屈折: 標準的な大気では、電波は地球の表面に沿うように少し下向きに曲がります(地球半径の約4/3倍の半径で進むモデルを使います)。
- 減衰: 強い雨の中を通過すると、電波が吸収・散乱され弱まるため、その奥にある雨雲が実際より弱く映ったり、見えなくなったりします(特に波長の短いレーダーで顕著)。
5. 非降水エコー・異常伝搬
「雨が降っていないのに映る」あるいは「実際と違う場所に映る」現象です。
| 用語 | 現象 | 原因 |
| グランドクラッター (地物エコー) | 山やビルが映る。 | 通常は消去処理されるが、残ることもある。動かないのが特徴。 |
| シークラッター (海面エコー) | 海面の波が映る。 | 風が強い日に、レーダー中心付近の海上に現れる。 |
| 異常伝搬 | 通常届かない遠くの地面が映る。 | 逆転層などで電波が下向きに強く曲げられ、遠くの地表や海面に当たって戻ってくる現象。 |
| エンゼルエコー | 雨雲のない場所に点々と映る。 | 鳥の群れ、昆虫、空気の密度の不連続面など。 |
| サイドローブ | 本来の方向以外に漏れた電波によるエコー。 | 非常に強い積乱雲があるとき、本来の方角とは違う場所に偽の像が出る。 |
6. ブライトバンド
層状性の雨(乱層雲など)において、上空の一定の高度だけ帯状に強いエコー(ドーナツ状に見えることも)が観測される現象です。

発生メカニズム(融解層)
上空から落ちてきた雪(氷)が、0℃の高度(融解層)を通過して雨(水)に変わる瞬間に起こります。
- 雪の状態: 氷は水より誘電率が低く、反射は弱い。
- 溶け始め: 雪片の表面が水で覆われる。
- レーダーにとっては「巨大な水滴」に見えるため、反射強度が急激に増大する。
- 落下速度: 雨粒になると落下速度が増し、密度が下がるため、反射強度は再び弱まる。
問題点: ブライトバンドが出ている場所では、地上の雨量はそれほど強くないのに、レーダーは「猛烈な雨」と過大評価してしまう恐れがあります。
7. X-MPレーダー(マルチパラメータレーダー)
従来のレーダー(単一偏波)の弱点を克服するために導入が進んでいる「二重偏波レーダー」です。ただしXバンドは波長が短く、観測可能なエリアは小さいです。
特徴
- 二重偏波: 水平方向の波(水平偏波)と、垂直方向の波(垂直偏波)の2種類を同時に発射します。
- 粒子の形を判別:
- 雨粒は大きい粒ほど、空気抵抗で「まんじゅう型(横長)」になります。
- 水平偏波の反射 > 垂直偏波の反射 となる差を利用して、「雨」か「雪」か、「大粒」か「小粒」かを識別できます。
メリット
- 精度の向上: 粒の半径に依存する従来の「Z-R関係」ではなく、粒子の形と量から計算する手法などを使うため、雨量推定の精度が格段に高いです。
- 減衰補正: 雨による電波の減衰を正確に補正できます。
- 即時性: 配信までの時間が非常に短い(1分程度)。
まとめ:試験対策チェックリスト
- Z∝D6 (反射強度は粒径の6乗に比例)。
- ブライトバンドは、雪が解ける層(融解層)で過大評価される現象。
- 異常伝搬は、逆転層などで電波が下に曲げられる現象。
- MPレーダーは水平・垂直の2波を使い、粒子の形を見て精度良く雨量を測る。
- Xバンドは波長が短く高精細だが、大雨で減衰しやすい。
