8-1 大気の大規模循環:ハドレー循環・フェレル循環・極循環とは?【気象予報士試験対策】

地球は球体であるため、赤道付近では太陽からの受熱量が多く(熱過剰)、極付近では宇宙空間への放射冷却が上回ります(熱不足)。この赤道と極の熱的アンバランスを解消し、地球全体の温度を平準化しようとする大気の壮大な移動システムが「大気大循環」です。

もし地球が自転していなければ、赤道で上昇して極で下降する「1つの巨大な循環」になるはずですが、地球の自転に伴う「コリオリ力」が働くため、大気の流れは南北半球でそれぞれ「3つの細胞」に分断されます。

今回は、気象予報士試験の一般知識で頻出となる、これら3つの経度面循環(ハドレー循環、フェレル循環、極循環)の力学的・熱力学的な構造と、それに伴う地上の風系について論理的に解説します。


1. 全体像:3つの循環と地上の風

まずは、地球全体でどのような循環が起きているのか、模式図でイメージをつかみましょう。


2. ハドレー循環(低緯度帯の循環)

赤道から緯度30度付近にかけて形成される、最も規模が大きく明瞭な循環です。

  • 上昇域(赤道低圧帯):
    赤道付近では強い日射によって空気が暖められ、大規模な上昇気流が発生します。ここは積乱雲が帯状に連なる「赤道収束帯(ITCZ)」となります。
  • 高層の移動と下降域(亜熱帯高圧帯):
    圏界面まで上昇した空気は高緯度(南北)に向かって流れますが、コリオリ力を受けて次第に西風(偏西風)へと向きを変え、緯度30度付近でそれ以上高緯度へ進めなくなり、滞留して下降気流となります。これが「亜熱帯高圧帯」(太平洋高気圧などの起源)です。
  • 地上の風系(貿易風):
    亜熱帯高圧帯から赤道低圧帯に向かって、地上付近を吹き込む風です。コリオリ力により東よりの風となるため、北半球では「北東貿易風」と呼ばれます。

直接循環

ハドレー循環は、「暖かい場所(赤道)で空気が上昇し、冷たい場所(緯度30度)で下降する」という、熱力学の基本原則に忠実な動きをしています。このように、熱の力で自発的に駆動する循環を「直接循環」と呼びます。

亜熱帯高圧帯

場所: 緯度30度付近

ハドレー循環とフェレル循環の下降気流が重なる場所です。

  • 特徴: 上空から乾燥した空気が降りてくるため、雲ができにくく、晴天が続きます
  • 影響: 世界の多くの砂漠(サハラ砂漠など)は、この緯度帯に分布しています。日本の夏の太平洋高気圧もこの一部です。
  • 別名: 中緯度高圧帯とも呼ばれます。

3. フェレル循環(中緯度帯の循環)

緯度30度から60度付近にかけて形成される循環です。私たちが暮らす日本もこの領域に含まれます。

  • 下降域と上昇域:
    緯度30度付近の亜熱帯高圧帯で下降した空気が、緯度60度付近の「寒帯前線帯(亜寒帯低圧帯)」に向かって地上付近を北上し、そこで上昇気流となって再び上空を南下するという流れです。
  • 地上の風系(偏西風):
    亜熱帯高圧帯から高緯度へ向かって地上付近を吹く風は、コリオリ力によって右に曲げられ、年間を通して西よりの風となります。これが「偏西風(中緯度偏西風)」です。

間接循環

フェレル循環の最大の特徴は、「相対的に暖かい場所(緯度30度)で下降し、冷たい場所(緯度60度)で上昇している」という点です。これは熱力学の原則に反しています。
実際には、フェレル循環はそれ自体が独立して自発的に回っているわけではなく、ハドレー循環と極循環という2つの巨大な直接循環に挟まれ、さらに温帯低気圧や移動性高気圧などの「高・低気圧の波(擾乱)」による運動量輸送によって「物理的に回されている」に過ぎません。これを「間接循環」と呼びます。

中緯度偏西風帯

場所: 緯度30度 〜 60度付近の地上〜上空

フェレル循環のエリア(地上)や、ハドレー循環の上空などで吹く西寄りの風です。

  • 成因:
    • 高緯度(低温)と低緯度(高温)の温度差(気圧差)によって、極に向かう力が働きます。
    • これにコリオリ力(進行方向の右へ曲げる力)が働き、西から東へ向かう強い風(偏西風)となります。
  • ジェット気流: 特に圏界面付近(高さ10km前後)では風速が最強となり、「ジェット気流」と呼ばれます。

4. 極循環(高緯度帯の循環)

緯度60度付近から極地にかけて形成される循環です。

  • 下降域(極高圧帯):
    北極や南極では年間を通じて日射量が少なく、強力な放射冷却によって空気が著しく冷却されます。密度が増大して重くなった空気は大規模な下降気流となり、極域に「極高圧帯」を形成します。
  • 地上の風系(極偏東風):
    極高圧帯から低緯度側(南)に向かって地上付近を流れ出す寒気です。これもコリオリ力によって右に曲げられ、東よりの風となるため「極偏東風」と呼ばれます。
  • 上昇域(寒帯前線帯):
    極から流れ出した冷たい極偏東風と、中緯度から北上してきた暖かい偏西風が、緯度60度付近で衝突します。性質の異なる空気がぶつかるこの境界を「寒帯前線」と呼び、暖かい空気が冷たい空気の上に乗り上げる形で大規模な上昇気流(亜寒帯低圧帯)が生じます。

極循環もハドレー循環と同様に、冷たい場所で下降し、相対的に暖かい場所で上昇しているため「直接循環」に分類されます。

偏東風帯

場所: 緯度60度以北の地上

極循環の地上部分で吹く風です(極偏東風とも呼びます)。


5. まとめ:3つの循環と地上風系

学科試験で必ず出題される、循環の名称、熱的性質、および地上の気圧帯と風系の対応を一覧表に整理しました。各要素の論理的な結びつきを把握しておきましょう。

循環の名称熱的性質緯度(目安)地上の気圧帯(上昇/下降)地上の風系
ハドレー循環直接循環0° 〜 30°赤道低圧帯(上昇) $\rightarrow$ 亜熱帯高圧帯(下降)貿易風(東風)
フェレル循環間接循環30° 〜 60°亜熱帯高圧帯(下降) $\rightarrow$ 亜寒帯低圧帯(上昇)偏西風(西風)
極循環直接循環60° 〜 90°亜寒帯低圧帯(上昇) $\leftarrow$ 極高圧帯(下降)極偏東風(東風)

大気の大規模循環は、地球全体の熱収支を平準化するための壮大なシステムです。この基礎を理解することで、日本付近を通過する温帯低気圧のふるまいや、梅雨前線・秋雨前線の形成メカニズムをより深く、力学的に読み解くことが可能になります。