数値予報モデルは万能ではありません。「計算上の制約」や「物理法則の簡略化」により、必ず誤差を含んでいます。この誤差の特性を理解し、統計的に補正する技術がガイダンス(翻訳・修正技術)です。
1. 数値予報の短所(誤差の要因)
コンピュータの中で大気をシミュレートする際に生じる、根本的な問題点です。
① スピンアップ
予報計算の開始直後(初期時刻〜数時間)に、降水量が極端に少なくなったり、計算が不安定になったりする現象です。
- 理由: 初期値(風や気温)とモデルの方程式のバランスがまだ馴染んでいないため、上昇気流がうまく作られず、雨雲が発生しないためです。
- 対策: 予報の最初の数時間の雨量は、過小評価されている可能性があるため注意が必要です。
② 対流性降水による誤差(パラメタリゼーションの限界)
「積乱雲(対流)」に伴う雨は、前述の通りパラメタリゼーション(みなし計算)で表現されます。
- 現象: 実際には「局地的な豪雨」であっても、モデル上では「広い範囲の弱い雨」として表現されてしまう(平滑化される)傾向があります。
- 逆も然り: パラメタリゼーションのスイッチが過敏に入ると、実際には降らないノイズを出すことがあります。
③ タイムステップ
時間は連続して流れていますが、コンピュータ計算では「10分進める、また10分進める…」と小刻みに計算します。この時間刻みをタイムステップ ($\Delta t$) と呼びます。
- この刻み幅が粗いと、微小な変化を捉えきれず、計算結果が発散(異常な値になる)したり、現実とずれたりします。
④ じょう乱のスケールによる誤差
モデルが表現できる現象の大きさには限界があります。
- 5〜8倍の法則: 一般に、格子間隔($\Delta x$)の 5〜8倍以上の大きさ を持つ現象でないと、そのモデルでは正しく表現できないとされています。
- 例:格子間隔13kmのGSMなら、直径60km未満の小さな低気圧や前線の波動は、形がぼやけたり、無視されたりします。
- エリアシング: 格子間隔より小さな波が、偽の大きな波(ノイズ)として計算に現れてしまう現象です。
2. 予報誤差の種類と要因
予報と実況のズレ(誤差)は、その性質によって分類されます。
① モデル地形データの解像度
モデルの中の地形(山や谷)は、実際の地形よりもなだらか(のっぺり)になっています。
- 山が低い: 実際より山が低く表現されるため、山に風がぶつかって降る雨(地形性降雨)を過小評価しがちです。
- 谷がない: 盆地や谷が埋め立てられているため、夜間の放射冷却による冷え込み(最低気温)を表現しきれないことがあります。
- 陸地・海: 複雑な海岸線では、実際は陸なのにモデル上は海(あるいはその逆)となっていることがあり、気温予報に大きな誤差を生みます。
② 大気運動のカオス性
いわゆる「バタフライ効果」です。
- 現象: 初期値に含まれるごくわずかな観測誤差が、計算を進めるにつれて指数関数的に増大し、最終的には全く違う予報結果になってしまう性質。
- 限界: これにより、決定論的な予報(詳細な予報)の限界は 約2週間 とされています。これを克服するために「アンサンブル予報」があります。
③ 系統的誤差
モデルの癖(バイアス)のことです。
- 特徴: 「常に気温が高めに出る」「常に雨の降るタイミングが遅れる」といった、規則性のある誤差です。
- 重要性: 規則性があるため、過去のデータと比較することで統計的に補正(修正)が可能です。これがガイダンスの役割です。
- 対義語: ランダム誤差(不規則な誤差)。これは補正が難しく、アンサンブル予報で確率的に捉えるしかありません。
3. 天気予報ガイダンスの種類
数値予報モデルが出力した格子点値をそのまま天気予報に使うことは稀です。過去の誤差データを使って補正し、より利用しやすい形(地点ごとの降水確率や最高気温など)に加工したものをガイダンス(翻訳情報)と呼びます。
代表的な手法
気象庁では主に以下の手法を使ってガイダンスを作成しています。
- カルマンフィルタ:
- 特徴: 「最近の予報誤差」を学習し、逐次、補正係数を更新していく手法。
- 利点: 季節の変わり目など、モデルの誤差傾向が変化した場合でも、すぐに追従して修正できます。気温ガイダンスなどで主流です。
- ニューラルネットワーク:
- 特徴: 脳の神経回路を模したAI技術。入力データ(風、湿度、気圧配置など)と出力(天気、雨量)の間の複雑な非線形関係を学習します。
- 利点: 地形が複雑な場所や、単純な式では表せない関係性がある場合(例:アメダス地点の降水量予測)に威力を発揮します。
- ロジスティック回帰式:
- 特徴: 「雨が降る・降らない」といった確率予測に適した統計手法。
- 用途: 降水確率予報ガイダンスなどで使われます。
ガイダンスのプロダクト例
- 地点ガイダンス: アメダスなどの特定の観測地点に対応した予報値(最高・最低気温、降水確率など)。
- 格子ガイダンス: モデルの格子点ごとに補正を加えた面的なデータ(降水量分布、発雷確率など)。
- 時系列ガイダンス: 3時間ごとの天気や気温の変化を予測したもの。
試験のポイント:
ガイダンスは「系統的誤差(モデルの癖)」を取り除くのには非常に有効ですが、「モデルが全く予測していない現象(急激な突発現象など)」を作り出すことはできません。 また、過去の統計データがない稀な現象(記録的な猛暑や台風など)では、補正精度が落ちることがあります。
まとめ:試験対策チェックリスト
- スピンアップは、計算初期に降水量が少なくなる現象。
- モデルは実際の地形よりなだらかであるため、地形性降雨や盆地の冷え込みを過小評価しやすい。
- 系統的誤差(バイアス)はガイダンスで修正できるが、ランダム誤差は修正できない。
- カルマンフィルタは、直近の誤差傾向を学習して修正する手法。
- ニューラルネットワークは、複雑な非線形関係を扱える手法。
- ガイダンスを使っても、元々のモデルが全く予想していない現象は予測できない。
