3-1 数値予報の仕組み

数値予報とは、大気の物理法則(運動方程式や熱力学の式など)をコンピュータで計算し、将来の大気の状態をシミュレーションすることです。

1. 気象観測の利用

数値予報は、現在の地球の状態(初期値)がわからなければスタートできません。そのために世界中のあらゆる観測データを使います。

データの収集(不規則なデータ)

  • 地上: アメダス、気象官署、船舶、ブイ。
  • 上空: ラジオゾンデ、ウィンドプロファイラ、航空機観測 。
  • 宇宙: 気象衛星(ひまわり、NOAAなど)、GPS衛星による水蒸気観測。

データの品質管理

集められたデータには「明らかな間違い(エラー)」が含まれることがあります。

  • 例:故障した温度計が「気温100℃」と報告してきた場合など。
  • これらを統計的・物理的にチェックして除去します。

2. 数値予報の流れ(4つのステップ)

数値予報は、ただ計算するだけでなく、新しい観測データを取り込んで修正し続ける「サイクル(循環)」で動いています。このサイクルを理解してください。

① 第一推定値

  • 第一推定値とは: 「前回の予報計算」で弾き出された、現在の時間の予報値です。
  • 役割: 観測データは世界中に均一にあるわけではありません(海上などはスカスカ)。観測データがない場所を埋めるための「背景(バックグラウンド)」として使われます。
  • イメージ: 「昨日の夕方に出した今日の朝の予報」を、今日の朝の天気図の下書きとして使うようなものです。

② 客観解析

  • 作業: 「第一推定値(下書き)」と「実況の観測データ(本物のデータ)」を混ぜ合わせて、最も確からしい大気の状態(格子点データ)を作ります。
  • 手法: 「四次元変分法」などが主流です。
    • 単に今のデータだけでなく、「時間の変化傾向」も含めて、観測データと物理法則に最も矛盾しない値を計算で求めます。
  • 成果物: これを「解析値」と呼びます。これが天気図の「実況」の元になります。

③ 初期化

  • 問題点: 客観解析で作った「解析値」をそのまま予報モデル(方程式)に入れると、計算が不安定になることがあります。
    • 観測誤差などが原因で、自然界には存在しない異常な高周波の波(重力波ノイズ)が計算上で発生してしまうためです。
  • 作業: ノイズを除去し、計算モデルがスムーズに動くようにデータを微調整します。
    • これを「非線形ノーマルモード・イニシャライゼーション」などと呼びます。
  • 成果物: これが予報モデルのスタート地点となる「初期値」です。

④ 予報モデル計算

  • 作業: 初期値をもとに、物理方程式(プリミティブ方程式など)を使って、時間を少しずつ進めながら未来の状態を計算します。
    • 差分法やスペクトル法といった数学的手法を使います。
  • 結果: これが「明日の予報」や「明後日の予報」になります。
  • サイクルの継続: 計算された予報値のうち、「次の観測時刻」の値が、次回のサイクルの「第一推定値」として再利用されます。

まとめ:サイクルの順序

第一推定値 $\rightarrow$ (観測データと合成) $\rightarrow$ 客観解析 $\rightarrow$ (ノイズ除去) $\rightarrow$ 初期化 $\rightarrow$ 予報モデル計算 $\rightarrow$ (次の第一推定値へ…)


3. パラメタリゼーション

数値予報モデルには物理的な限界があります。それを補うための技術がパラメタリゼーションです。

格子(グリッド)の限界

コンピュータは地球全体を細かい格子(マス目)に区切って計算します。

  • 全球モデル (GSM): 格子間隔は約13km。
  • メソモデル (MSM): 格子間隔は約5km。

「サブグリッド現象」の問題

気象現象の中には、この格子間隔よりも小さい現象がたくさんあります。

  • 例:積雲対流の大きさは数km程度。13km四方のマス目の中に入ってしまうと、格子点ごとの計算ではその存在を直接表現できません。
  • しかし、積乱雲は熱や水蒸気を上空に運ぶため、無視すると予報が大外れします。

パラメタリゼーションの定義

格子点では直接表現できない小さな現象(サブグリッドスケール現象)が、格子点の値(気温、湿度、風など)に与える影響を見積もり、式の中に組み込む操作のこと。

主なパラメタリゼーションの種類

試験で問われるのは、「何をパラメタリゼーションしているか」です。

  1. 積雲対流:
    • 格子内で発生する積乱雲による、熱や水蒸気の鉛直輸送を見積もる。
  2. 放射:
    • 太陽光の吸収や、地面からの赤外放射、雲による反射・吸収を計算する。
  3. 地表面過程:
    • 地面の摩擦、熱のやり取り、海面からの水蒸気蒸発などを見積もる。
  4. 小規模地形(重力波抵抗):
    • 使用されている地形モデルより小さい凹凸が風に与える抵抗を見積もる。

まとめ:試験対策チェックリスト

  • 第一推定値は「前回の予報値」であり、観測のない場所を埋める役割がある。
  • 客観解析では、第一推定値と観測データを最適なバランスで合成する(四次元変分法など)。
  • 初期化は、計算を爆発させないために不要な波(ノイズ)を取り除く作業。
  • パラメタリゼーションは、「格子より小さい現象」の影響を統計的・経験的に見積もること。
  • 雨粒の生成や、放射、積乱雲などはパラメタリゼーションの対象である。

学習のヒント:

「数値予報=完璧」ではありません。「格子間隔より小さい雲は直接計算できないから、パラメタリゼーションという『みなし計算』をしている」という限界(誤差の原因)を知っておくことが、予報の誤差評価(一般知識・実技共通)につながります。