6-2 大気の気温減率と安定度

「雲ができるとき、なぜ空気は上昇するのか?」「なぜ積乱雲まで発達する場合と、すぐに消えてしまう場合があるのか?」

これを理解する鍵が、気温減率安定度です。
ここでは、空気が上昇するときにどれくらい冷えるか(断熱減率)と、それによって決まる大気の状態(安定度)について解説します。


1. 乾燥断熱減率 ($\Gamma_d$)

空気が「乾いている(未飽和である)」状態で上昇するとき、どれくらいのペースで温度が下がるかを示す値です。

  • 定義: 水蒸気が凝結していない空気塊が、断熱上昇するときの温度低下率。
  • 値: 約 $10^\circ \text{C} / \text{km}$ ($100\text{m}$ で $1^\circ \text{C}$)

なぜ冷える?(メカニズム)

上空に行くと気圧が下がります。空気塊は膨張し、周囲の空気を押しのける「仕事」をします。
熱力学第一法則により、仕事をした分だけ内部エネルギー(温度)が使われるため、温度が下がります。


2. 湿潤断熱減率 ($\Gamma_m$)

空気が「湿っている(飽和して雲粒ができている)」状態で上昇するとき、どれくらいのペースで温度が下がるかを示す値です。

  • 定義: 水蒸気が凝結している(飽和した)空気塊が、断熱上昇するときの温度低下率。
  • 値: 約 $5^\circ \text{C} / \text{km}$ ($100\text{m}$ で $0.5^\circ \text{C}$)
    • ※実際には温度や気圧で変化しますが、試験の計算問題では「$5^\circ \text{C}/km$」や「$6^\circ \text{C}/km$」として与えられることが多いです。

なぜ乾燥断熱減率より小さい?

水蒸気が水になるときに、熱(潜熱)を放出します。
「膨張による冷却」を、「凝結による加熱」が少し打ち消すため、温度の下がり方が緩やかになります。


3. 大気の安定度

ここが本単元の山場です。
ある空気塊を無理やり持ち上げたとき、「そのまま上昇していくか(不安定)」、「元の場所に戻ってくるか(安定)」を判断することを安定度の判定といいます。

判定には、以下の3つの温度変化率を比較します。

  1. 気温減率 ($\Gamma$): 実際に観測された、その場の周囲の空気の温度変化(環境温度)。
  2. 乾燥断熱減率 ($\Gamma_d$): 約 $10^\circ \text{C}/km$
  3. 湿潤断熱減率 ($\Gamma_m$): 約 $5^\circ \text{C}/km$

① 絶対不安定

周囲の空気が、上空に行くほど冷たい状態です。

  • 条件: $\Gamma > \Gamma_d$ (周囲の温度低下が $10^\circ \text{C}/km$ より大きい)
  • 現象:
    持ち上げた空気塊は(乾燥でも湿潤でも)、周囲より常に暖かく(軽く)なります。
    そのため、浮力を得て自動的にどんどん上昇していきます。
  • 発生場所: 真夏の焼けた砂浜やアスファルトの上など、地表付近のごく薄い層に限られます。

② 条件付不安定

周囲の温度低下が、それなりな状態です。実際の大気の大部分はこの状態です。下層に暖かい空気が流入したり、上空に寒気が流入したりすると条件付不安定になります。

  • 条件: $\Gamma_m < \Gamma < \Gamma_d$ (周囲の低下率が $5$ 〜 $10^\circ \text{C}/km$ の間)
  • 現象:
    • 空気が乾燥している場合 $\rightarrow$ 周囲より冷たく(重く)なり、安定(元に戻る)。
    • 空気が飽和(湿潤)している場合 $\rightarrow$ 周囲より暖かく(軽く)なり、不安定(上昇する)。
  • 意味: 「水蒸気が凝結するという条件付きで、不安定になる」ため、こう呼ばれます。これが積乱雲発達の主な要因です。

③ 絶対安定

周囲の空気が、上空に行ってもあまり冷たくない(あるいは暖かい)状態です。

  • 条件: $\Gamma < \Gamma_m$ (周囲の低下率が $5^\circ \text{C}/km$ より小さい)
  • 現象:
    持ち上げた空気塊は(乾燥でも湿潤でも)、周囲より常に冷たく(重く)なります。
    そのため、手を離すと元の高さまで沈んで戻ってきます。
  • 逆転層: 上空の方が暖かい場合(気温減率がマイナス)もこれに含まれます。絶対に雲が発達しない、強力な蓋(ふた)のような状態です。

まとめ:安定度判定表

状態条件式持ち上げた空気の挙動
絶対不安定$\Gamma > \Gamma_d$飽和でも未飽和でも上昇
条件付不安定$\Gamma_m < \Gamma < \Gamma_d$乾燥なら下降、飽和なら上昇
絶対安定$\Gamma < \Gamma_m$飽和でも未飽和でも下降