9-4 フェーン現象のメカニズムと計算

1. フェーン現象とは

フェーン現象とは、湿った空気が山を越えて反対側に吹き下りる際、風下側で気温が高くなり、乾燥した風が吹く現象のことです。

発生の仕組み(熱力学的な説明):

  1. 風上側: 湿った空気が山の斜面を上昇します。ある高さで凝結して雲ができ、雨を降らせます。このとき、水蒸気が水になるときに出す熱(潜熱)によって、空気の温度低下が緩やかになります(湿潤断熱変化)。
  2. 風下側: 雨を降らせて水分を失った空気は、山頂から麓へ吹き下ります。このときは雲がなく乾燥しているため、空気が圧縮されることによって急激に温度が上昇します(乾燥断熱変化)。
  3. 結果: 山を登るときの「冷えるペース」よりも、山を下るときの「暖まるペース」の方が大きいため、元々の気温よりも高くなります。

2. フェーン現象と物理量の変化

フェーン現象が発生した際、風上側の麓(スタート地点)と風下側の麓(ゴール地点)の空気を比較すると、各物理量は以下のように変化します。

これが「なぜそうなるのか」を理解することが重要です。

物理量変化の傾向理由・メカニズム
気温 ($T$)上昇する山を登る際の冷却率(約0.5℃/100m)より、下る際の昇温率(約1.0℃/100m)の方が大きいため。
相対湿度 ($RH$)低下する気温が上昇し、かつ水蒸気量が減少しているため、空気中に含むことのできる水蒸気の割合(飽和に対する割合)が激減するため。「乾燥した風」と呼ばれる理由です。
絶対湿度 ($a$)低下する山の風上側で雨として水分を落としてしまったため、空気 $1m^3$ 中に含まれる水蒸気の質量は減少します。
混合比 ($r$)低下する乾燥空気1kgに対する水蒸気の量のこと。絶対湿度と同様に、降水によって水蒸気が系外へ排出されたため減少します。
温位 ($\theta$)上昇する温位は乾燥断熱過程では保存されますが、凝結による潜熱(凝結熱)を受け取ったため、そのエネルギー分だけ温位が上昇します。

ポイント:

  • 水蒸気量(混合比・絶対湿度)が減るのは、途中で雨が降るからです。
  • 温位が上がるのは、雨になるときに放出される熱エネルギー(潜熱)を空気が受け取ったからです。

3. フェーン現象の計算(気象予報士試験・頻出例題)

気象予報士試験の学科試験(一般知識)などでよく出題される、典型的な計算問題を解いてみましょう。

例題

標高 $0\text{m}$ の地点Aにある空気塊が、標高 $2000\text{m}$ の山脈を越えて、反対側の標高 $0\text{m}$ の地点Bに吹き下りた。

地点Aでの気温は $20^\circ\text{C}$ であり、空気塊は標高 $1000\text{m}$ で飽和し、そこから山頂までは雲が発生して降水があったものとする。

地点Bでの気温は何 $^\circ\text{C}$ になるか求めよ。

ただし、乾燥断熱減率を $1.0^\circ\text{C}/100\text{m}$、湿潤断熱減率を $0.5^\circ\text{C}/100\text{m}$ とする。


解答と解説

計算は3つのステップ(未飽和の上昇 $\rightarrow$ 飽和して上昇 $\rightarrow$ 乾燥して下降)に分けて行います。

Step 1: 地点A(0m) $\rightarrow$ 凝結高度(1000m)

  • まだ雲はできていないので、乾燥断熱減率($1.0^\circ\text{C}/100\text{m}$)で冷えていきます。
  • 高度差: $1000\text{m}$
  • 温度変化: $1000\text{m} \div 100\text{m} \times 1.0^\circ\text{C} = 10^\circ\text{C}$ 低下
  • 1000m地点の気温: $20^\circ\text{C} – 10^\circ\text{C} = \mathbf{10^\circ\text{C}}$

Step 2: 凝結高度(1000m) $\rightarrow$ 山頂(2000m)

  • 雲ができ雨が降っているため、湿潤断熱減率($0.5^\circ\text{C}/100\text{m}$)で冷えていきます。
  • 高度差: $2000\text{m} – 1000\text{m} = 1000\text{m}$
  • 温度変化: $1000\text{m} \div 100\text{m} \times 0.5^\circ\text{C} = 5^\circ\text{C}$ 低下
  • 山頂の気温: $10^\circ\text{C} – 5^\circ\text{C} = \mathbf{5^\circ\text{C}}$

Step 3: 山頂(2000m) $\rightarrow$ 地点B(0m)

  • 雨を降らせた後は乾燥しているため、再び乾燥断熱減率($1.0^\circ\text{C}/100\text{m}$)で暖まりながら下ります。
  • 高度差: $2000\text{m}$
  • 温度変化: $2000\text{m} \div 100\text{m} \times 1.0^\circ\text{C} = 20^\circ\text{C}$ 上昇
  • 地点Bの気温: $5^\circ\text{C} + 20^\circ\text{C} = \mathbf{25^\circ\text{C}}$

答え:

地点Bの気温は $25^\circ\text{C}$ となる。(元の気温より $5^\circ\text{C}$ 上昇した)