8-2 地球規模の熱輸送

地球全体で見ると、太陽から受け取るエネルギーと、宇宙へ放出するエネルギーは釣り合っています(放射平衡)。
しかし、緯度ごとに見ると、そのバランスは大きく崩れています。

赤道付近では熱が余り、極付近では熱が足りていません。この不均衡を解消するために起きているのが「熱輸送(ねつゆそう)」です。


1. 地球放射と太陽放射(緯度による収支)

まず、エネルギーの「入り(太陽放射)」と「出(地球放射)」が緯度によってどう違うかを見てみましょう。

引用元:Vondar Haar and V Suomi, 1971:J. Atoms. Sci., 28 305-314.

① 太陽放射(入ってくる熱)

太陽からのエネルギーは、低緯度(赤道)ほど垂直に受けるため強く、高緯度(極)ほど斜めに受けるため弱くなります。

  • 特徴: 緯度による変化が非常に大きい(山なりのカーブ)。

② 地球放射(出ていく熱)

地球が宇宙へ出す赤外線エネルギーです。気温が高いほど多く出ますが、極と赤道の気温差は(絶対温度で見ると)そこまで極端ではないため、変化は緩やかです。

  • 特徴: 緯度による変化が小さい(なだらかなカーブ)。

③ 熱の過不足(エネルギー収支)

この2つのグラフを重ねると、ある緯度で交差します。

  • 緯度 約38度より低緯度(赤道側):
    [入り] > [出] となり、熱が過剰(余っている)
  • 緯度 約38度より高緯度(極側):
    [入り] < [出] となり、熱が不足(足りない)

💡 結論
このままでは赤道は無限に暑くなり、極は無限に寒くなってしまいます。
そうならないように、「過剰な低緯度から、不足している高緯度へ」向かって、常に熱が運ばれています。これを熱輸送と呼びます。


2. 大気・海洋・潜熱による熱輸送

では、誰がどうやって熱を運んでいるのでしょうか?
主な担い手は「大気」「海洋」です。

引用元:第61回気象予報士試験 一般知識

全熱輸送

熱輸送で最も極向きの輸送が大きいのは中緯度帯です。北緯40°付近で北向きの全熱輸送が、南緯40°付近で南向きの全熱輸送が最大(北向きの全熱輸送が最小)となっています。

① 大気による顕熱輸送

暖かい空気そのものが移動することで熱を運ぶ方法です。北半球を見てみますと下記の2つのピークがあります。

  • 北緯15°付近: ハドレー循環が担います。上空で暖かい空気を北へ運びます。
  • 北緯50°付近: 偏西風の波動(高気圧・低気圧)が担います。南からの暖かい風(暖気移流)として熱を北へ送ります。

南半球も対称的に2つのピークがあることがわかります。

② 大気中による潜熱輸送

水蒸気が持つエネルギー(潜熱)として運ぶ方法です。北半球を見てみますと2つのピークがあり、それぞれ北向きの潜熱輸送と南向きの潜熱輸送であることがわかります。

  • 北緯10°付近:南向きの潜熱輸送が極大となっています。亜熱帯高圧帯の南側なので北東貿易風となり、熱帯収束帯に水蒸気が運ばれています。
  • 北緯40°付近:北向きの潜熱輸送が極大となっています。亜熱帯高圧帯の北側で、モンスーンの影響などで北向きに水蒸気が運ばれています。

南半球もおおよそ対称的な2つのピークがあります。

③ 海洋による輸送

海流(暖流)による輸送です。

  • 黒潮メキシコ湾流などの巨大な暖流が、赤道付近の温かい海水を中緯度〜高緯度まで物理的に運びます。
  • 水は空気よりも熱容量(熱を蓄える力)が圧倒的に大きいため、ゆっくりですが確実に大量の熱を運びます。

3. 降水量と蒸発量の緯度分布

熱輸送において重要な役割を果たす「潜熱(水蒸気)」の動きを知るために、「降水量 ($P$)」「蒸発量 ($E$)」のバランスを見てみましょう。

引用元:C.W.Newton, ed., 1972:Meteor.monogr., 13, American Meteorogical Society.

$$
\text{水収支} = \text{降水量 } (P) – \text{蒸発量 } (E)
$$

緯度ごとの特徴

  1. 赤道付近(低緯度): $P > E$ (降る方が多い)
    • 活発な積乱雲(熱帯収束帯)により雨が多いため、湿潤です。
    • ここでは潜熱が放出され、大気を温めています。
  2. 緯度20度〜30度付近(亜熱帯): $E > P$ (蒸発する方が多い)
    • 亜熱帯高圧帯の晴天域です。強い日差しで海面から水がどんどん蒸発します。
    • ここは大気への水蒸気(潜熱エネルギー)の供給源となっています。世界の砂漠もこのエリアに集中します。
  3. 緯度40度〜60度付近(中緯度): $P > E$ (降る方が多い)
    • 低気圧や前線活動により雨が多いため、再び湿潤になります。
    • 南から運ばれてきた水蒸気がここで凝結し、潜熱を放出します。

水と熱の動きのまとめ

この分布を見ると、地球の熱輸送システムが見えてきます。

  1. 亜熱帯で海の水が蒸発し、熱を「潜熱」として取り込む。
  2. 大気の流れに乗って、赤道中緯度(高緯度側)へ運ばれる。
  3. そこで雲になり雨として降る際に、熱を「放出」する。

つまり、「雨の少ない乾燥帯から、雨の多い地域へ、水蒸気の形で熱が輸送されている」ということです。


まとめ

  • 熱の不均衡: 太陽放射の違いにより、緯度38度より南は「熱過剰」、北は「熱不足」。
  • 主役は大気: 熱輸送の約6割は大気(顕熱+潜熱)、約4割は海洋(海流)が担う。
  • 水の役割: 亜熱帯で蒸発した水蒸気が、高緯度で雨になるときに熱を解放する(潜熱輸送)プロセスが非常に重要。

この熱輸送の仕組みがあるおかげで、日本のような中緯度地域でも極端に寒くなりすぎず、四季のある気候が保たれています。