7-9 渦度:大気の「回転」エネルギー

天気予報、特に実技試験の予報文では「500hPaの正渦度域が近づくため…」という表現が頻繁に出てきます。
渦度とは、文字通り「空気の渦(回転)の強さ」を表す指標です。


1. 渦度とは

渦度($\zeta$:ゼータ)とは、空気塊がどのくらい強く回転しているかを示す量です。

北半球での条件

回転の方向によって、プラスとマイナスの符号が決まっています。

  • 正の渦度(+): 反時計回り(低気圧性循環)
    • 低気圧の中心や、気圧の谷などで見られます。
    • 「天気を崩す」性質があります(後述の収束・発散と関わるため)。
  • 負の渦度(-): 時計回り(高気圧性循環)
    • 高気圧の中心や、気圧の尾根などで見られます。
    • 「天気を良くする(安定させる)」性質があります。

📝 定義式(相対渦度)
$$
\zeta = \frac{\partial v}{\partial x} – \frac{\partial u}{\partial y}
$$
難しく見えますが、「場所による風速のズレ(シアー)」が回転を生むという意味です。


2. 渦度の発生メカニズム

渦度が生まれる原因は、大きく分けて2つあります。「曲がり」によるものと、「風速差」によるものです。

① 曲率渦度

風がカーブして流れるときに発生する、直感的にわかりやすい渦度です。

  • 気圧の谷(トラフ): 空気の流れが左(反時計回り)に曲がる場所 $\rightarrow$ 正(+)の渦度
  • 気圧の尾根(リッジ): 空気の流れが右(時計回り)に曲がる場所 $\rightarrow$ 負(-)の渦度

【 曲率による渦度の発生 】

② シアー渦度

ここが試験の盲点です。風が真っ直ぐ吹いていても、渦度は発生します。
川の流れを想像してください。真ん中が速くて、岸辺が遅いとき、その中間に棒を置くとクルクル回りますよね?これがシアー渦度です。

強風軸(ジェット気流など)を基準に見ます。

  • 強風軸の北側(左側):
    内側(南)の風が速く、外側(北)の風が遅い $\rightarrow$ 反時計回り(+)の回転が生まれる。
  • 強風軸の南側(右側):
    内側(北)の風が速く、外側(南)の風が遅い $\rightarrow$ 時計回り(-)の回転が生まれる。

【 シアーによる渦度の発生(北半球) 】

風に向かって左側(北側)は、右側の速い流れに引きずられて反時計回りに回転します。


3. 絶対渦度保存則

最後に、大規模な空気の流れ(偏西風の蛇行など)を理解するための最重要法則です。

絶対渦度とは?

これまで説明した渦度(風による回転)は、地球から見た回転なので「相対渦度 ($\zeta$)」と呼びます。
一方、地球自体も回転しています。この地球の回転成分を「惑星渦度 ($f$)」と呼びます。($f$ はコリオリパラメータと同じです)

この2つを足したものが、宇宙から見た真の回転量、絶対渦度 ($\eta$) です。

$$
\text{絶対渦度 } \eta = \zeta (\text{相対渦度}) + f (\text{惑星渦度})
$$

保存則の仕組み

上空の摩擦のないレベル(非発散高度など)では、この絶対渦度が保存される(一定である)という法則があります。

$$
\frac{d}{dt} (\zeta + f) = 0
$$

これが何を意味するかというと、「空気塊が南北に移動すると、地球の回転($f$)が変わるため、埋め合わせとして自らの回転($\zeta$)を変えなければならない」ということです。

具体例:空気が南へ動くとき

  1. 南へ移動: 低緯度に行くため、惑星渦度 $f$ (地球の回転成分)が小さくなります。
  2. 保存則発動: 合計値($\zeta + f$)を一定に保つため、減った $f$ の分だけ、相対渦度 $\zeta$ を大きく(プラスに)しなければなりません。
  3. 結果: $\zeta$ が増える = 反時計回りの回転(低気圧性循環)が強まる
    $\rightarrow$ だから、偏西風が南へ蛇行してできる「気圧の谷」は、渦度が正になるのです。

具体例:空気が北へ動くとき

  1. 北へ移動: 高緯度に行くため、惑星渦度 $f$ が大きくなります。
  2. 保存則発動: 合計値を保つため、相対渦度 $\zeta$ を小さく(マイナスに)しなければなりません。
  3. 結果: $\zeta$ が減る = 時計回りの回転(高気圧性循環)が強まる
    $\rightarrow$ だから、北へ盛り上がった「気圧の尾根」は、渦度が負(高気圧性)になるのです。

🌍 まとめ
この「絶対渦度保存則」があるおかげで、偏西風は南北に波打ちながらバランスを取り続けています(ロスビー波)。