「地上では南風だったのに、上空の雲は西から東へ流れている」
このように、高度によって風向きや風速が違うことはよくあります。
実は、この「上層と下層の風のズレ」を見るだけで、その場所の気温が今後どうなるか(暖かくなるか寒くなるか)が分かります。その鍵となる概念が「温度風(おんどふう)」です。温度風は概念的なものなのでこれまでに学習した、地衡風や傾度風など実際に吹く風とは異なります。
1. 温度風の原理
温度風とは?
温度風とは、実際に空を吹いている風のことではありません。
ある2つの高度(例えば 850hPa と 500hPa)における地衡風のベクトルの差(引き算)のことです。
上層の風のベクトルから、下層の風のベクトルを引いた残りの分が「温度風」となります。数式で表すと以下のようになります。

$$\vec{V}_T = \vec{V}_U – \vec{V}_L$$
- $\vec{V}_T$ : 温度風ベクトル
- $\vec{V}_U$ : 上層の地衡風ベクトル
- $\vec{V}_L$ : 下層の地衡風ベクトル
温度風が吹く向き(温度風関係)
温度風の最大の特徴である、大気力学のルールが以下の法則です。
💡 温度風の法則(北半球)
温度風は、等温線(層厚の等値線)に平行に吹く。
さらに、北半球では温度風を背にして立つと、「左側に寒気、右側に暖気」がある。
これは、地衡風で学んだ「バイス・バロットの法則(左手に低気圧、右手に高気圧)」の温度版だと考えると覚えやすいです。この性質があるため、温度風の向きが分かれば、どちらに冷たい空気(または暖かい空気)があるのかを見抜くことができます。
2. 【試験対策】風の鉛直変化から「温度移流」を読み解く
気象予報士の実技試験で、毎年のように出題されるのが「高層天気図の風向(チス)の変化を見て、その場所に暖気が入るか、寒気が入るかを判定させる問題」です。
これは、温度風のベクトル図を描くことで論理的に導き出せるのですが、試験本番で毎回ベクトルを引き算していると時間が足りません。以下の「回転の法則」として暗記してしまうのが、合格への最短ルートです。
2-1 上空に向かって「時計回り」に変化 = 暖気移流
下層から上層に向かって、風向が時計回りに変化している場合、その場所には暖かい空気が流れ込んでいます(これを暖気移流と呼びます)。

- (例) 850hPa(下層)で南風 $\rightarrow$ 500hPa(上層)で西風
- 試験での使われ方: 「温暖前線の前面」など、これから天気が崩れて暖かくなる場所の高層観測データでこのパターンがよく見られます。
2-2 上空に向かって「反時計回り」に変化 = 寒気移流
下層から上層に向かって、風向が反時計回りに変化している場合、その場所には冷たい空気が流れ込んでいます(これを寒気移流と呼びます)。

- (例) 850hPa(下層)で北風 $\rightarrow$ 500hPa(上層)で西風
- 試験での使われ方: 「寒冷前線の後方」や「冬型の気圧配置」など、寒波が流れ込んでくる場所でこのパターンが顕著に現れます。
⚠️ 注意ポイント:風向の測り方
風向は「風が吹いてくる方向」です。「南風(180度) $\rightarrow$ 西風(270度)」への変化は時計回り(暖気移流)です。角度の数字が大きくなるからといって混乱しないようにしましょう。
3. まとめ:温度風と温度移流の法則
実技試験の天気図解析で迷ったときは、この表をすぐに思い出せるようにしておきましょう。
| 高度による風向の変化 | ベクトルの回転 | 発生している現象 | 気温の変化 |
|---|---|---|---|
| 時計回りに変化 | 右回り | 暖気移流 | 暖かくなる |
| 反時計回りに変化 | 左回り | 寒気移流 | 寒くなる |
| 変化しない(同じ向き) | 回転なし | 移流なし(順圧大気) | 変化なし |
温度風は「目に見えない架空の風」ですが、大気の立体的な温度構造を知ることができます。
上空の風の基礎(地衡風・傾度風・旋衡風)、地上の風(摩擦)、そして立体的な風のズレ(温度風)まで理解できれば、大気力学の「風の単元」は万全でしょう。
