前回までの熱力学では、空気そのものの性質(温度や体積の変化)を学びました。今回からは、大気中に働く「力」の釣り合いについて見ていきます。
その第一歩が静力学平衡(せいりきがくへいこう)です。
「なぜ、空気は重力で地面にペシャンコに張り付かず、かといって宇宙へも飛んでいかず、ふんわりと地球を覆っているのか?」
その答えがこの式に詰まっています。
1. 大気の静力学平衡
大気中にある仮想的な空気の塊(空気塊)を想像してください。この空気塊が上下に動かず、その場に留まっているとき、そこには2つの力が働いており、それらが完璧に釣り合っています。
- 重力:地球の中心に向かって引っ張る力(下向き)
- 気圧傾度力(鉛直方向):下の方ほど気圧が高いため、下から上へと押し上げる力(上向き)
静力学平衡の式
この釣り合いを数式で表すと、以下のようになります。気象学で最も有名な式の一つです。
$$
\frac{\partial P}{\partial z} = -\rho g
$$
または変形して:
$$
\Delta P = -\rho g \Delta z
$$
- $\Delta P$:気圧の変化量
- $\Delta z$:高度の変化量
- $\rho$(ロー):空気の密度
- $g$:重力加速度(約 $9.8 \, m/s^2$)
式の意味
この式は「高度が $\Delta z$ だけ上がると、気圧は $\rho g \Delta z$ だけ下がる(マイナス)」ということを示しています。
- 密度 $\rho$ が大きい(重い空気)ほど、気圧の減り方は急激になる。
- 密度 $\rho$ が小さい(薄い空気・上空)ほど、気圧の減り方は緩やかになる。
2. 高度と気圧の換算(測高公式)
静力学平衡の式を使えば、気圧の変化から高度差を見積もったり、その逆を行ったりすることができます。
地表付近での目安
地上の空気密度(約 $1.2 \, kg/m^3$)を式に代入して計算すると、日常や登山の感覚として役立つ以下の数値が導かれます。
💡 実践目安: 約 8m 上昇すると 1hPa 下がる
試験の計算問題でも、特に指定がない限り「地表付近では 10m で約 1hPa 減少する」といった概算を使って、気圧差を高度差に換算するケースがあります。
上空での目安
上空に行くと空気密度が小さくなるため、1hPa下がるのに必要な距離は長くなります。
- 500hPa面(高度約5.5km)付近: 約 15m で 1hPa 減少
- 300hPa面(高度約9km)付近: 約 30m で 1hPa 減少
3. 層厚(シックネス)の式
静力学平衡の式に、状態方程式($P = \rho RT$)を組み合わせて積分すると、層厚の式が導かれます。これは実技試験の「高層天気図」の解析で極めて重要です。
層厚とは
ある気圧面(例:1000hPa)から、別の気圧面(例:500hPa)までの高度差(厚さ)のことです。
層厚の式
$$
Z_2 – Z_1 = \frac{R \bar{T}}{g} \ln \frac{P_1}{P_2}
$$
- $Z_2 – Z_1$:2つの気圧面の高度差(層厚)
- $R$:気体定数
- $\bar{T}$:その層の平均気温(絶対温度)
- $g$:重力加速度
- $\ln \frac{P_1}{P_2}$:気圧の比(対数)
📝 最重要ポイント:層厚と気温の関係
この式で最も重要なのは、「層厚は、気層の平均気温 $\bar{T}$ に比例する」という点です。定数部分を無視すれば、以下のように単純化できます。
層厚 $\propto$ 気温
- 層厚が大きい(厚い) $\rightarrow$ 空気が暖かい(膨張している)
- 層厚が小さい(薄い) $\rightarrow$ 空気が冷たい(収縮している)
この原理を利用して、天気図上で等圧面の間隔が狭くなっている場所を探すことで、「ここに寒気がある」と判断できるのです。
