前回の「気体分子の挙動」では、理想的な気体の振る舞い(ボイル・シャルルの法則)を学びました。今回は、より現実に即した気体の性質と、エネルギーの出入りを規定する「熱力学第一法則」について解説します。
特に「気体定数」と「比熱」は、計算問題で頻繁に使用する数値ですので、必ず覚えましょう。
1. 実在気体の状態方程式
気象学では通常、大気を「理想気体」として扱います。理想気体とは、「分子自身の体積がなく、分子間に引力や反発力が働かない」と仮定した気体のことです。
しかし、厳密には現実の気体(実在気体)には分子の大きさがあり、分子間力も働きます。これを考慮した式として有名なのがファン・デル・ワールスの状態方程式です。
- \(a\):分子間力を補正する項
- \(b\):分子の体積を補正する項
📝 気象学での扱い
地球の大気付近(地表〜成層圏)では、圧力がそれほど高くなく、密度も低いため、分子同士の距離が十分に離れています。
そのため、「実在気体のズレは無視できる」として、常にシンプルな理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) を使用して問題ありません。
2. アボガドロの法則
「同温・同圧・同体積のすべての気体は、同数の分子を含む」という法則です。
これにより、気体の重さ(密度)の違いは、分子量(分子1個の重さ)だけで比較できることがわかります。
- 乾燥空気の平均分子量:約 29 (主に \(N_2\) と \(O_2\))
- 水蒸気 (\(H_2O\)) の分子量:18 (\(H=1, O=16\) なので \(1 \times 2 + 16\))
水蒸気(18)は乾燥空気(29)よりも軽いです。そのため、「湿った空気は、乾いた空気よりも軽い」という、気象学における非常に重要な性質が導かれます。
3. 普遍気体定数と固有気体定数
状態方程式 \(PV=nRT\) に出てくる \(R\) には、使う単位系によって2種類のアプローチがあります。
① 普遍気体定数 (\(R^*\))
気体の種類に関係なく、\(1 \, mol\) あたりで考えた場合の定数です。化学で習うのはこちらです。
- 値: \(R^* = 8.31 \, J \cdot K^{-1} \cdot mol^{-1}\)
② 固有気体定数 (\(R\))
気象学では、空気を「モル」ではなく「キログラム (\(kg\))」で扱う方が便利です。そのため、普遍気体定数をその気体の分子量 \(m\) で割った、気体ごとの定数を使います(\(R = R^* / m\))。
4. 乾燥空気と水蒸気の気体定数
気象予報士試験では、以下の2つの固有気体定数の値を暗記しておく必要があります。
乾燥空気の気体定数 (\(R_d\))
- 値: \(R_d \approx 287 \, J \cdot K^{-1} \cdot kg^{-1}\)
水蒸気の気体定数 (\(R_v\))
- 値: \(R_v \approx 461 \, J \cdot K^{-1} \cdot kg^{-1}\)
💡 試験対策のポイント
2つの比率がよく問われます。
\(\frac{R_d}{R_v} = \frac{287}{461} \approx 0.622\)
この 0.622 という数字は、水蒸気圧から混合比を計算する際などに頻出の係数です。
5. 熱力学第一法則
エネルギー保存の法則を、気体の熱力学に適用したものです。
「気体に加えた熱エネルギーは、内部エネルギーの増加と、外部への仕事に使われる」という法則です。
- \(dQ\):気体に加えられた熱量(加熱)
- \(dU\):内部エネルギーの増加(温度上昇)
- \(dW\):外部へした仕事(膨張)
仕事 \(dW\) は、圧力 \(P\) と体積変化 \(dV\) を使って \(dW = P dV\) と表せるため、以下の形でもよく書かれます。
\(dQ = c_v dT + P dV\)
6. 定圧比熱と定積比熱
比熱とは、「物質 \(1kg\) の温度を \(1K\) 上げるのに必要な熱量」のことです。気体の場合、温め方によって2種類の比熱があります。
定積比熱 (\(C_v\))
体積を変えないように(密閉容器などで)加熱する場合の比熱です。
膨張しないため「外部への仕事」はゼロになり、加えた熱はすべて温度上昇に使われます。
- 乾燥空気の値: \(C_v \approx 717 \, J \cdot K^{-1} \cdot kg^{-1}\)
定圧比熱 (\(C_p\))
圧力一定のまま(自由に膨張できるように)加熱する場合の比熱です。
温度上昇だけでなく、膨張して外部へ仕事をする分、余計にエネルギーが必要になります。そのため、\(C_p\) は \(C_v\) よりも大きくなります。
- 乾燥空気の値: \(C_p \approx 1004 \, J \cdot K^{-1} \cdot kg^{-1}\)
マイヤーの関係式
定圧比熱と定積比熱の差は、気体定数に等しくなります。
🌍 なぜ重要?
大気の断熱変化(空気が上昇・下降する際の温度変化)を計算する際、この \(C_p\)(約1000)という値を使います。「乾燥断熱減率が約 \(10^\circ C/km\)」になるのは、この比熱の値から導かれます。
