2-6 複合天気図の見方:850・700・500 hPaの情報を組み合わせて気象を解析する

気象予報士試験では、複数の気圧面の気象要素を組み合わせた天気図を読み取り、低気圧の発達や降水が発生しやすい場所を判断する問題が出題されます。

複合天気図は、気温・風・上昇流・高度・渦度などの情報を一つの資料にまとめたものです。それぞれの気象要素を個別に読むだけでなく、複数の情報がどのように関係しているかを考えることが重要です。

この記事では、気象庁の「極東850 hPa気温・風、700 hPa上昇流、500 hPa高度・渦度図(AXFE578)」を中心に、複合天気図の構成と読み方、実際の解析手順を解説します。

1. 複合天気図とは

引用元:気象庁HP
引用元:気象庁HP

複合天気図とは、複数の気圧面や異なる気象要素の情報を組み合わせて表示した天気図です。

通常の高層天気図では、特定の気圧面の高度・気温・風などを確認します。一方、複合天気図では、異なる高度の情報を一緒に見ることで、大気の状態を立体的に把握しやすくなります。

複合天気図で分かること

複合天気図を利用すると、次のような情報を関連づけて考えられます。

  • 下層の気温や風から、寒気・暖気の分布や空気の流れを把握する
  • 中層の上昇流から、空気が上昇している領域を把握する
  • 上空の高度や渦度から、トラフや渦度の大きい領域を解析する
  • それぞれの情報を組み合わせ、雲や降水、低気圧の発達に関係する条件を考える

ただし、複合天気図に表示された情報だけで、実際の降水の有無や量を確定できるわけではありません。地上天気図や湿数など、ほかの資料も必要に応じて確認します。

2. AXFE578とは

気象予報士試験の学習で押さえておきたい複合天気図の一つが、AXFE578です。

正式には、「極東850 hPa気温・風、700 hPa上昇流、500 hPa高度・渦度図」と呼ばれます。

この天気図には、次の3つの気圧面の情報が組み合わされています。

気圧面表示される主な要素読み取る内容
850 hPa気温・風下層の寒気・暖気、空気の流れ
700 hPa上昇流空気が上昇している領域
500 hPa高度・渦度上空の気圧の谷、渦度の分布

各気圧面の役割を理解すると、複合天気図の読み方が整理しやすくなります。

850 hPa:気温と風

850 hPaでは、気温の分布と風向・風速を確認します。

等温線から寒気・暖気の位置を把握し、風向から空気がどちらへ運ばれているかを考えます。

また等温線の集中帯や風向のシアーから前線の解析も可能です。

例えば、暖かく湿った空気が流入している場合、雲や降水が発生するための水蒸気供給に関係することがあります。ただし、850 hPaの気温と風だけでは、湿り具合や降水の有無を確定できません。

700 hPa:上昇流

700 hPaでは、鉛直方向の空気の動きを確認します。

空気が上昇すると膨張して冷却されるため、十分な水蒸気がある場合には雲が形成されやすくなります。

AXFE578では、700 hPaの鉛直流が表示されます。上昇流の分布は降水域を考える手がかりになりますが、上昇流があるだけで必ず降水が発生するわけではありません。

500 hPa:高度と渦度

500 hPaでは、等高度線から上空の気圧の谷や尾根に対応する流れを把握し、渦度の分布から空気の回転の特徴を確認します。

トラフ付近や正の渦度が大きい領域は、上昇流や低気圧の発達に関係することがあります。ただし、トラフや正の渦度があるだけで、必ず上昇流や降水が生じるわけではありません。

3. AXFE578の記号の読み方

複合天気図では、複数の線や記号が重なっているため、まず何を表す表示なのかを区別する必要があります。

850 hPaの気温

気温は等温線で表されます。AXFE578では、850 hPaの気温を示す等温線が3℃ごとに描かれ、寒気・暖気の分布を読み取ることができます。

気温の低い領域や高い領域を確認したら、風向と組み合わせて、寒気・暖気がどの方向へ運ばれているかを考えます。

850 hPaの風

風向・風速は矢羽根で表されます。

風向は、風が吹いてくる方向です。例えば、南西風は南西から北東へ向かって吹きます。

風向と等温線を組み合わせると、暖気移流や寒気移流を判断する手がかりになります。

700 hPaの上昇流

AXFE578では、700 hPaの鉛直流が等値線などで表されます。表示の種類によっては、上昇流の領域が縦線の網掛けで示されます。

気象庁の解説資料では、鉛直p速度が負の領域が上昇流に対応すると説明されています。

ここでいう鉛直p速度は、気圧の時間変化率として表した鉛直運動です。通常の高度方向の速度とは符号の扱いが異なり、鉛直p速度が負のときは上昇流、正のときは下降流となります。

この点は試験でも混同しないようにしましょう。実際の図では、必ず凡例を確認してください。

500 hPaの高度と渦度

500 hPaの等高度線から、上空の気圧の谷や尾根に対応する流れを把握します。

渦度の表示では、正の渦度が大きい領域や渦度の極大位置が解析の手がかりになります。北半球では、正の相対渦度は低気圧性の回転に対応します。

ただし、渦度の正負や表示方法は、どの渦度を示しているかによって解釈が変わる場合があります。天気図の凡例と解説を確認しましょう。

4. 複合天気図を読む基本手順

複合天気図を読むときは、最初からすべての情報を同時に判断しようとせず、気圧面ごとに情報を整理してから関連づけると分かりやすくなります。

ただし、実際の試験時には時間も限られているため、問題に沿って必要な図を見ていくという作業になるかと思います。

手順1:500 hPaの高度と渦度を確認する

まず、上空の気圧の谷や尾根、渦度の大きい領域を確認します。

トラフや正の渦度が大きい領域は、上昇流や低気圧の発達に関係する可能性があります。

手順2:850 hPaの気温と風を確認する

次に、下層の寒気・暖気の分布と風向・風速を確認します。

暖気や湿った空気が流入しているか、寒気がどの方向へ進んでいるかを整理します。なお、湿り具合を確認するには、湿数や相当温位などの別資料も必要になる場合があります。

手順3:700 hPaの上昇流を確認する

上昇流が予想・解析されている領域を確認します。

上昇流がある領域では、空気が冷却され、雲が形成されやすくなる場合があります。ただし、十分な水蒸気があるかどうかも重要です。

手順4:3つの情報を組み合わせる

最後に、500 hPaの高度・渦度、850 hPaの気温・風、700 hPaの上昇流を関連づけます。

例えば、上空のトラフや正の渦度が大きい領域があり、その付近で上昇流が見られ、さらに下層から暖かく湿った空気が流入している場合、雲や降水が発生しやすい条件がそろっている可能性があります。

ただし、これは一般的な解析の考え方です。実際の天気は、ほかの気象要素や時間的な変化も含めて判断します。

5. 複合天気図を使った解析例

ここでは、仮想的な気圧配置を使って、情報をどのように組み合わせるかを説明します。実際の特定日時の天気図を示したものではありません。

例:低気圧の発達と降水の可能性を考える

地上に低気圧があり、AXFE578で次の特徴が見られたとします。

  • 500 hPa:低気圧の上流側にトラフがあり、正の渦度が大きい領域が存在する
  • 700 hPa:低気圧付近に上昇流が見られる
  • 850 hPa:低気圧に向かって暖気が流入している

この場合、次のように考えます。

  1. 500 hPaのトラフや渦度の分布から、上空の流れが地上の低気圧にどう関係しているかを考える。
  2. 700 hPaの上昇流から、空気が上昇している領域を把握する。
  3. 850 hPaの気温と風から、下層の暖気がどの方向へ運ばれているかを確認する。
  4. 湿数などの資料も確認し、上昇する空気に十分な水蒸気が含まれているかを考える。
  5. 地上天気図や降水予想図と照らし合わせ、降水が発生しやすい領域を総合的に判断する。

この例では、複数の気象要素が低気圧の発達や降水に関係する可能性を示しています。しかし、これらの特徴がそろっているだけで、低気圧の発達や強い降水を断定することはできません。

6. 複合天気図と個別の高層天気図の違い

複合天気図と、これまで学んだ個別の高層天気図は、用途に違いがあります。

天気図主な役割
地上天気図地上の高気圧・低気圧・前線などを把握する
850 hPa天気図下層の気温・風・温度移流などを解析する
700 hPa天気図湿数や上昇流などから雲・降水に関係する条件を考える
500 hPa天気図トラフ・リッジ・渦度などから中層の流れを解析する
300 hPa天気図ジェット気流や強風軸などから上空の強い風を解析する
AXFE578850・700・500 hPaの情報を組み合わせて解析する

複合天気図は、個別の天気図を不要にするものではありません。複数の情報を一度に確認できる一方、表示が複雑になるため、それぞれの気象要素の意味を理解していることが前提になります。

7. 気象予報士試験で押さえたいポイント

複合天気図では、次の内容を重点的に確認しましょう。

  • AXFE578に表示される各気圧面と気象要素
  • 850 hPaの気温・風から寒気や暖気の移流を考える方法
  • 700 hPaの鉛直p速度と上昇流・下降流の関係
  • 500 hPaの高度・渦度からトラフや渦度の大きい領域を読む方法
  • 上昇流があるだけでは降水を断定できないこと
  • 湿潤域や下層の水蒸気供給と組み合わせて考えること
  • 複数の気象要素を根拠として、解析の結論を説明する方法

特に重要なのは、「上昇流があるから雨が降る」と単純に判断しないことです。空気の湿り具合、下層からの水蒸気供給、地上の前線や低気圧なども確認する必要があります。

8. まとめ

複合天気図は、複数の気圧面の気象要素を組み合わせて、大気の状態を立体的に理解するための資料です。

AXFE578では、850 hPaの気温・風、700 hPaの上昇流、500 hPaの高度・渦度を確認できます。

まずは各気圧面の情報を個別に読み取り、次に上昇流と湿り具合、上空の流れと下層の空気の流入を関連づけましょう。複数の根拠を組み合わせて判断することが、気象予報士試験の実践的な天気図解析につながります。