7-2 地衡風:上空を吹く風の基本モデル

天気図を見ると、風は等圧線に沿って吹いていることが多いことに気づきます。
「気圧傾度力は低気圧の方へ向かう力なのに、なぜ風は吸い込まれずに横(等圧線平行)に吹くのか?」

その答えが、気象学の理想的な風のモデルである地衡風(ちこうふう)です。
上空の摩擦のない世界(自由大気)では、この地衡風が実際の風の良い近似となります。


1. 地衡風とは

地衡風とは、「気圧傾度力」と「コリオリ力」の2つの力が釣り合った状態で吹く風のことです。

風が吹く仕組み(北半球)

  1. まず、気圧差によって「気圧傾度力」が生じ、空気は低気圧の方へ動き出します。
  2. 動き出すと(風速がつくと)、「コリオリ力」が進行方向の右側に働き始めます。
  3. 風速が増すにつれてコリオリ力も強くなり、風向きはどんどん右へ曲がっていきます。
  4. 最終的に、気圧傾度力(低気圧側)とコリオリ力(高気圧側)が一直線上で逆向きに釣り合います。
  5. このとき、風は等圧線に対して平行に吹き続けます。

力の釣り合い図(北半球)

※北半球では、風の進行方向に対して「右側」にコリオリ力が働き、気圧傾度力と釣り合う。

💡 法則:バイス・バロットの法則
「北半球で風を背にして立つと、左手に低気圧、右手に高気圧がある」
これは地衡風の性質そのものを表しています。


2. 地衡風の式

地衡風の速度(風速)は、力の釣り合いの式から導くことができます。

$$
\text{気圧傾度力} = \text{コリオリ力}
$$

$$
\frac{1}{\rho} \frac{\Delta P}{\Delta n} = f v_g
$$

これを地衡風速 $v_g$ について解くと、以下の重要な式になります。

$$
v_g = \frac{1}{\rho f} \frac{\Delta P}{\Delta n}
$$

  • $v_g$:地衡風の風速
  • $\rho$:空気密度
  • $f$:コリオリパラメータ ($2\Omega \sin \phi$)
  • $\frac{\Delta P}{\Delta n}$:気圧傾度(気圧の変化率)

3. 気圧傾度や緯度との関係

試験では、上記の式を変形させずとも、「何がどうなると風が強くなるのか?」という関係性を直感的に理解しておくことが重要です。

① 気圧傾度との関係(比例)

式の分子に $\Delta P$ があることから分かります。

  • 等圧線の間隔が狭い(気圧傾度が大きい)ほど、地衡風は強くなる。
    • これは天気図を見たときの直感通りですね。

② 緯度との関係(反比例)


式を見ると、分母に $f$(コリオリパラメータ)があります。$f$ は緯度 $\phi$ が高いほど大きな値になります。

$$
v_g \propto \frac{1}{\sin \phi}
$$

つまり、「等圧線の間隔(気圧傾度)が同じならば」

  • 低緯度(赤道に近い)ほど、地衡風は強くなる。
  • 高緯度(極に近い)ほど、地衡風は弱くなる。

🤔 なぜ?(イメージでの理解)
コリオリ力は「風速に比例して」強くなる力でした。
高緯度では地球の回転の影響($f$)が強いため、「遅い風速」でもすぐに十分なコリオリ力が生まれて、気圧傾度力と釣り合ってしまいます。
一方、低緯度では $f$ が弱いため、「速い風速」にならないと、気圧傾度力に対抗できるだけのコリオリ力が生まれないのです。

③ 密度との関係(反比例)

分母に $\rho$ があります。

  • 密度が小さい(上空)ほど、地衡風は強くなる。
    • 同じ気圧差なら、空気が軽い(スカスカな)方が、抵抗なく加速しやすいイメージです。

まとめ

項目地衡風速への影響理由
等圧線の間隔狭いほど 強い押す力(気圧傾度力)が強いから
緯度低いほど 強いコリオリ係数 $f$ が分母にあるから
高度(密度)高いほど 強い密度 $\rho$ が分母にあるから

地衡風は、あくまで「直線的」な等圧線でのモデルです。
次は、低気圧や高気圧のように「カーブしている」場所で吹く風、「傾度風(けいどふう)」について学びましょう。