エマグラムは、ラジオゾンデ観測で得られた「気温」と「露点温度」を高度(気圧)ごとにプロットしたグラフです。
1. 図の見方
まずは、グラフに最初から描かれている「背景の線」と、観測データを書き込む「実線」を区別しましょう。
基本軸と背景の線

- 等圧線(横軸): 気圧(高度)を表します。上に行くほど気圧が低く高度が高くなります。
- 等温線(縦軸): 気温を表します。右に行くほど高温となります。
- 乾燥断熱線: 飽和していない空気塊が上昇・下降するときの温度変化の線(約 $10^\circ\text{C}/km$)。グラフの傾きから高度が上がるほど気温が下がることがわかります。この線上は温位が一定となります。
- 湿潤断熱線: 飽和した空気塊が上昇するときの温度変化の線(約 $5 \sim 6^\circ\text{C}/km$)。空気塊上昇時に凝結を伴い潜熱を放出するため、乾燥断熱線よりも傾きは立っています(温度変化が小さい)。
- 等飽和混合比線: 飽和している空気が含む水蒸気の量(g/kg)を示します。
プロットされるデータ(観測データ)

- 気温 ($T$): 右側にある実線。大気の実際の温度分布。
- 露点温度 ($T_d$): 左側にある破線(または実線)。
- 湿数 ($T – T_d$): 2本の線の幅。幅が狭いほど湿っていることを意味します(湿数3℃以下なら湿潤域=雲がある可能性が高い)。
2. 対流圏界面
対流圏と成層圏の境界です。
- 定義: 500hPa面以上の高さで、気温減率が2.0℃/kmを以下となっている層が2km以上続いている部分の最下面。
- 季節による違い:
- 夏: 圏界面は高く、温度は低い($-70^\circ\text{C}$くらい)。
- 冬: 圏界面は低く、温度は高い($-50^\circ\text{C}$くらい)。
3. 典型的な大気構造
実技試験では、エマグラムの形状から「どんな気象現象が起きているか」を推測する力が問われます。
① 積乱雲・雷雨(不安定な大気)

- 特徴: 下層が高温多湿(気温と露点温度の線が近い)。
- 状態曲線: 気温減率が大きい。
- 原理: 空気塊を持ち上げたときに、周囲よりの空気が寒いと、暖かい空気塊は軽いため、自動的に上昇し続け、背の高い雲を作ります。
② 前線面(転移層)

- 特徴: ある高度で突然、気温減率が小さくなる(または逆転層になる)。
- 湿数: 前線面付近では、湿数が小さく(湿っている)なります。
- 原理: 前線面より下層は寒気、上層は暖気となっているため、逆転層が生じます。また、暖気が前線面を滑昇する際に凝結するため湿数が小さくなります。
③ 冬型(日本海側)

寒気の吹き出しによる雪雲の構造です。
- 特徴: 下層には日本海側から湿った冷たい空気が入り込んでいます。
- 湿数: 上層では、大気の沈降の沈降により、湿数は大きいです。
- 雲頂高度: 逆転層があるため、積乱雲はそこまで高く発達できず、雲頂高度は3000〜5000m程度で止まります。
③ 冬型(関東地方太平洋側)

- 特徴: 下層には日本海側からの冷たい空気が入り込んでいます。
- 湿数: 山脈を越えた下降流となるため、日本海側と違い、下層の湿数も大きいです。
- 天気: 冬の関東地方の太平洋側は寒くてもよく晴れることが多いです。
4. SSI(ショワルター安定指数)
雷雨の可能性(大気の安定度)を判定する指数です。

- 定義: 850hPaにある空気塊を、500hPaまで断熱的に持ち上げたときの気温と、その場の実際の500hPa気温の差。
- 持ち上げ方:
- 850hPaの気温と露点温度から出発。
- 気温は乾燥断熱線に沿って、露点温度は等混合比線に沿って持ち上げる。
- 交点(持ち上げ凝結高度:LCL)からは、湿潤断熱線に沿って500hPaまで持ち上げる。
- 判定:
- プラス (+): 安定(持ち上げた空気が周囲より冷たく重いので、元に戻ろうとする)。
- マイナス (-): 不安定(持ち上げた空気が周囲より温かく軽いので、上昇し続ける)。
- プラスであっても0から3程度であれば、雷雨の可能性もあります。
- -7程度になると非常に不安定と言えます。
5. CAPE と CIN

① CAPE(対流有効位置エネルギー)
- 意味: 空気塊が「自力で上昇できるエネルギー」の総量。
- 図上の位置: 自由対流高度(LFC)から平衡高度(EL)までの間。
- 面積: 地上から持ち上げた空気の温度線が、観測気温の温度線より右側(高温)にある囲まれた面積。
- 判定: 値が大きいほど上昇気流が強く、積乱雲が発達しやすい。雷雨や突風のポテンシャルが高い。
② CIN(対流抑制エネルギー)
- 意味: 空気塊が「上昇を妨げられるエネルギー」の総量。
- 図上の位置: 地上から自由対流高度(LFC)までの間。
- 面積: 持ち上げた空気の温度線が、環境の温度線より左側(低温)にある囲まれた面積。
- 判定:
- 値が大きいと、上昇気流が発生しにくい(発雷しない)。
- ただし、CAPEも大きくCINも適度にある場合、何らかのきっかけ(強制上昇)でCINの「蓋」が破れると、爆発的な積乱雲発達につながることがあります。
重要な高度の定義
- 持ち上げ凝結高度(LCL): 雲ができ始める高さ。
- 自由対流高度(LFC): ここを超えると空気塊が周囲より暖かくなり、勝手に上昇を始める高さ。
- 平衡高度(EL):空気塊と周囲の気温が等しくなり、浮力がなくなる高さ。雲頂となる。
